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おかえりモネ・こんなにも心惹かれ、抉られた経験は無い

朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」も最終週を残すのみとなった。
生まれてから今までこんなにも心に刺さり、心を抉られた作品に出会った事は無い。

朝の連続テレビ小説は時報代わりに観られる。朝の準備をしながら観るので話の内容は明るく分かりやすいのが王道らしい。
この点では「おかえりモネ」は相当異端だ。
以前も書いたがこの作品は極めて丁寧で繊細で不親切だ。
物語では分かりやすい説明はほとんど無い。
災害など現実的なところはとことんリアルに冷徹に表現するのに、心の内面などでは逆に
直接的な表現を使わない。
主人公百音自分の気持ちを表に出すことが少ないし、自己主張も強くない。
リアクションは言葉ではなく目線や表情であることも少なくない。
本当に丁寧で繊細で不親切な作品なのだ。

それでも前半はさほど気にならなかった。
1週から9週までは宮城県登米を舞台に物語は進行した。
地方出身の平凡な少女。
過去に傷つき将来も見えない。
しかし多くの人と出会い、様々な経験をすることで自分がやりたい事を見つける。
やりたいことを出来る資格を手に入れる為に努力する。そこにはちょっと気になる男性として若手医師・菅波が現れサポートをする。2人の心の交流もありつつ、資格をして入れ都会(東京)へ旅立っていく。
ある意味王道ではないだろうか。
多くの過去について「何故?」と思う部分はあるがスルーしても気にならない程度だった。
この前半だけでも充分1つの作品として通用する脚本、素晴らしい役者さんたちの演技と演出があり、とても満足度の高い作品だと感じていた。普通の作品として。

中盤に入っても最初は大きく変わらなかった。
主人公百音は念願の会社に入り成長していく。
東京で明るく自由にやりたい事をやっている百音は輝いていて応援したくなる。
前半で心の交流を築いた菅波との恋模様も入ってくる。
この辺りから不親切さが目立ってくる。
恋愛を人生の軸とせず自分の感情をあまり表さない百音と奥手で不器用な菅波。
このじれったさ。「何考えているの?」「今の表情は何?」とヤキモキ、ドキドキしながら見入ってしまう。不器用だけど百音を大切に思う菅波に「がんばれ」と思いながら観てしまう。
「分からない」が「分かりたい」に変わる。何を考えているのか想像する。どんどん物語の中に引き込まれて登場人物たちをリアルに感じるようになっていた。
それでも物語全体の半分も過ぎた14週辺りまではじれったさにドキドキはしつつ登場人物の事を想像しながらも平穏な心で観られていた。

しかし15週から少し様相が変わる。
震災を経験した幼馴染達と妹の未知が東京の百音を訪ねる。
震災をきっかけに微妙な距離が空いた姉妹の嫉妬と確執。
同じ震災を経験していてもその時に居た場所、被害、立場、その後の経験などそれぞれの想いを持つ若者たち。あの時の事を始めて、ほんの少しだけ話始める。しかし5年半経っても傷が消えることは無い。
登場人物たちの苦しみや今の苦しみ。今刺さった心の痛み。
すでに充分登場人物たちを考えリアル想像することに慣れ切っていると本当に苦しく心が痛むのだった。

「分からない」から「分かりたい」と思う。
今はどんな事を考えているのだろう?何故こんな表情をするのだろう?
そんなことをずっと考えていると、登場人物たちが本当に存在するような感覚になってくるのだ。

百音の心の痛みに寄り添う菅波。2人は恋人同士になる。
ずっとドキドキしていたのでまるで自分の事のように大喜び。
その後すぐ2人が遠距離恋愛になることが判明。2人のすれ違いが起こった時も本気で心配したがお互いの気持ちを確かめ合い解決する。
この時も本気で良かったと安堵するのだった。

物語は2年半が過ぎる。
東京での仕事も4年目を迎え、明るく楽しく自信をもって仕事に取り組む百音。
遠距離恋愛中の菅波とも安定した関係を築いているよう。
過去の傷も少しは癒え明るい未来向けて進んでいって欲しいと思っていた時に菅波が東京にやってくる。
菅波がついにプロポーズをする!
百音も応えるつもりでいる。
「よし、良くやった」
そう喜んだ瞬間だった。
百音の実家に竜巻の被害が発生したとの連絡。

いつか故郷に帰って何か自分に出来ることをしたい、故郷に貢献する為にもっと実力を身に着けたいと思っていた百音。

急遽故郷に帰った百音は復旧作業をしている家族や地元の人を見て決心する。

今そこに居て一緒に何かをやりたいと。

菅波との結婚を一旦保留。
東京での仕事も止め故郷に戻る決心をした。
幸い会社の好意で2年限定地方営業所扱いの身分で。

珍しく自分の意思を真っすぐ表す百音。
その気持ち考えはわかる。普通のドラマなら「がんばれ!」と思うだろう。
ただすでに他人事ではない。

東京で菅波と結婚して、仕事のキャリアを積んで、確実に故郷に貢献できる準備をしてから戻ったほうが良い。
4年程度の経験で1からビジネスを立ち上がるのがいかに困難か目に見えている。
今は東京に残る方がベターだ。
本気の忠告をしたくなる心境。

第19週から23週までの5週間。
いきなり帰ってきてもすぐに信用を得られる訳はなく、提案する仕事も相手にされない。
家族や友人が抱える問題は時間が経っても解決できない事も多い。
案の定様々な困難に直面し傷つく百音。
それを見ながら同時に心を抉られる自分。

それでも菅波の支えを得ながら一歩一歩進む百音。
百音を触媒に解決の一歩を踏み出す人もいる。
百音を信頼してくれる人もいる。

そして明日から最終週が始まる。
どのような結末になるのか。
世の中はそんなにすぐ問題が解決してハッピーになるほど甘くない。
それが分かっているだけに不安が尽きない。
それでも百音を始めとした登場人物たちの幸せを強く願っている。

今までこんなに考え、感情移入をした経験は無い。
本当に楽しい半年間だった。同時に何故こんなに苦しい想いをしているのだろうと思ってもいる。比喩ではなく本当に何度も何度も泣いているし夜寝られないこともある。特に週末金曜土曜は顕著だ。
それでも離れられず観てしまう。何度も観てしまう。とんでのない魅力に溢れた作品だった。

本当に丁寧で繊細で不親切だけど大きな優しさに溢れた物語だった。


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