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【校閲ダヨリ】 vol. 45 なんでもかんでも「禍」にすればよいという話ではないと私は思うのです




みなさまおつかれさまです。
今回は、ようやく訪れた束の間の空き時間を使って、せわしなく動いていた時期に思いを巡らせた由無し事を書き連ねていこうと思います。

テーマは「コロナ禍」という言葉です。

昨年までは存在すらしていなかった言葉であろうかと思いますが、現在、ほとんどと言ってよい人々が、一度は見たり聞いたりしたことがある言葉になっているのではないでしょうか。
ひとつの言葉が新たに誕生して、「老若男女ほとんど」と言ってよい人々の間に認知されるためには想像以上に時間がかかるものですが「コロナ禍」にいたっては、瞬く間の出来事であった点、このウイルスの恐ろしさをあらためて感じずにはいられません。
J-CAST調べによると、初めて使用が確認されたのが2020年2月12日。現在まで8か月と言ったところです。

さて、その意味ですが、新しすぎる言葉であるため、当然既存の辞書には載っていません
しかし、意味がない言葉など存在しません。
単語の構造から、意味を導き出してみましょう。

コロナ」は、「新型コロナウイルス」のことと容易に察することができますね。
問題は「禍(か)」ですが、普段の生活ではあまり目にする機会がありません。
この漢字は、辞書(『字通』)に載っていますので、調べてみますと
   
   

[1] わざわい、わざわいする。
[2] つみ・とがをうける、とがめ、やぶれる。

   
   
とあります。
似ている字に「」「」などがありますが、意味もそもそも異なりますので、注意してください。
   
   
これで、それぞれの字の意味するところが判明しました。あとは、両者を連結すればよいです。
コロナ禍という言葉はつまり「新型コロナウイルスによって引き起こされた災い」という意味になるわけです。
   

私が気になるのがここからです。

例えば、このような使い方は意味に適っていると思います。
   
   

コロナ禍により、接待の回数が激減した。
コロナ禍は、業界をまたぎ経済に大きな打撃を与えた。
コロナ禍で修学旅行が中止になった。

   
   
対して、このような例はどうでしょう。
   
   

・●●さん、コロナ禍での手繋ぎデート。
コロナ禍で頑張る地方自治体の取り組み。
コロナ禍の飲食業界で働くスタッフを取材。

   
   
新型コロナウイルスが引き起こした災い」という意味に鑑みると、何かのどに小骨が刺さっているような違和感を覚えてしまうのです。
イマイチな例として紹介したものを、詳しく見ていきましょう。
   
   
・●●さん、コロナ禍での手繋ぎデート。

「コロナが引き起こした災い」が「手を繋ぐ」という行為を誘発したように読めます。つまり、●●さんは普段(平時)のデートでは手を繋がない派なのです。
   
   
コロナ禍で頑張る地方自治体。

「コロナが引き起こした災い」が地方自治体を頑張らせている、と読めます。普段(平時)は頑張っていないのでしょうか。そんなことはありませんよね。
   
   
コロナ禍の飲食業界で働くスタッフを取材。

「コロナによる災い」の飲食業界……。こんなネガティブな印象を読者に与えてよいのかと思ってしまいます。
   
   
以上、イマイチの例では「」の意味が筆者の意図しているものとすれ違っている可能性があります。上の3つはどれも「新型コロナウイルスが蔓延する中で」という意味で使いたいのではないかと私は推測します(本当のところは筆者のみぞ知るですが)。
   
この場合に「」を使ってしまうと、余計なニュアンスが邪魔をしてしまうことになります。
別に、「コロナ禍」でないと間違っているということにもならないのですから、「コロナ」という単語(音)を使いたいならば、同じ「か」と読む「」を使えばいいのにと思ってしまうわけです。
   

・●●さん、コロナでの手繋ぎデート。
・コロナで頑張る地方自治体。
・コロナの飲食業界で働くスタッフを取材。

   
このほうが、素直でよい文だと思いませんか。
   
   
……という御託(愚痴)を自分のチームメンバーにことあるごとに聞かせ(その節は申し訳ない)、原稿では一つひとつエンピツを入れておりました。
インターネットにはイマイチな使い方の例が山ほどあり、「誰も何も思わないのか……?」と疑心暗鬼に陥りそうなとき、希望の光が降り注ぎました。
   

コロナ下、国勢調査始まる ネット回答重視、目標50%」という、共同通信社がリリースしたニュースです。(共同通信社は、報道各社にニュースを下ろしている会社なので、各社のホームページでこのニュースを確認することができます。一例として日本経済新聞のページのリンクです)
   
これを見たときの私の衝撃は、誰が想像することができましょう。「きっと、記者は私と同じような思考の持ち主に違いない」と感じ、親近感が湧きました。
   

社会で主流の使い方から外れたような「コロナ下」ですが、汎用性は驚くほど広いです。
一歩踏み出す勇気が読者に真実を伝えるときがあることを、言葉を生業とするものとして書かずにはいられませんでした。
   
それでは、また次回。
   


参考
「コロナ禍」という言葉はどこから来て、なぜここまで広まったのか」(J-CAST)
字通』(平凡社)
コロナ下、国勢調査始まる ネット回答重視、目標50%」(日本経済新聞社 ※共同通信社発)



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