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【校閲ダヨリ】 vol. 41 固定観念の考察




みなさまおつかれさまです。

なんだか心理学のようなタイトルですが、字面通り「固定観念」という言葉について、混同されがちな「既成概念」を引き合いに出しつつ考えていこうと思います。

まずは、辞書的な意味からご紹介します。


固定観念
(1)ある人の心中に潜在して、つねに念頭を離れず、外界の動きや状況の変化によっても変革することが困難である考え。固着観念。

*個人主義思潮〔1915〕〈相馬御風〉緒論「それは固定観念から自由になる事であるは勿論だが」

*レイテの雨〔1948〕〈大岡昇平〉「我々に迷惑を掛けたくないといふ固定観念から出たものではないか」

   
   

既成概念
事物に関して、すでにでき上がり動かしがたいものと一般的に考えられている性質。

*ニュース映画と新聞記事〔1933〕〈寺田寅彦〉「併しレンズとフィルムは物質であって何等の既成概念もなければ抽象能力もない」

*学生と教養〔1936〕〈鈴木利貞編〉教養としての社会科学〈蝋山政道〉六「政治学及び経済学においても、既存制度の解釈、既成概念の注釈、実証的資料の系統化に終始し」

(『日本国語大辞典』より)



同じような意味」の言葉として、置き換え可能な表現とみなされがちな両者ですが、決定的な違いがあります
固定観念は「ある人の心中に潜在する」もので、既成概念は「一般的に考えられている」ものというところにそれはあります。
   
つまり、「個人」か「大勢」かの違いです。
例えば誰かが
   

ヴァイオリンやコントラバス(ウッドベース)、クラシックギター(ガットギター)はクラシック音楽の楽器だからちょっと古臭い

   
と考えているとすると、それは固定観念になります。(ジャズやカントリー、サンバ、ハウスミュージックなどでも登場しますよね)
   
   
既成概念は例えば「携帯電話にはカメラが付いている」「長靴には基本的に水は入ってこない」「プリンは甘い」といった、100人に聞いたら80人くらいは同意するような、すでに出来上がった(既成の)特徴のようなもののことを指すわけです。
   
両者の差異は、そのまま「観念」と「概念」の意味の違いにたどり着きます。
   
   

観念
(3)ある(抽象的な)物事に対する考え、意識。

   

概念
(2)言葉であらわされる大まかな意味内容。

(『日本国語大辞典』より)

   
   
考え」なのか「事実」なのか。意味だけで捉えるとはっきりとした境界があるように感じられますが、実際には、両者を分かつ線は非常にぼんやりとしています
個人の考えであれば「固定観念」ですが、みんなの考えになれば「既成概念」になってしまうのです。
ちょっと面白いですよね。
   
   

よく聞く「固定概念」という言葉はなんなの??

   
   
固定観念と、既成概念が混ざってしまった言葉だと私は考えます。(「既成観念」という方向で混ざる例はあまり聞いたことがありません)
間違いですよね?」と聞かれれば、(四字)熟語は成語という、いわゆる慣用句の一種ですから、「慣用的な使い方からは外れて、本来の意味をなさなくなる」という表現で私は答えることにしています。
   
「滋味深い料理に舌鼓を打つ」というキャッチがあったときに「滋味深い料理に舌鼓」と省いて書くとします。これは「舌鼓を打つ」までで慣用句なので、言葉尻だけで考えると意味のわからない(わかりづらい)表現になってしまうのと同じです。
慣用というレールを外れると、それまで装備していたアイテムの追加効果(コンボみたいなもの)が解けてしまうので、純粋に最小単位の「単語」としての意味でしか戦えなくなります
固定概念」の場合、固定+概念となり、「変化しない意味」という重言(重複表現)になってしまうので、言葉としては「頭痛が痛い」「落雷が落ちる」のような垢抜けない(ちょっと格好悪い)ものになってしまうわけです。
   
単に、「間違いだからだめ」と暗記的に覚えることを否定はしませんが、本質を理解していると他の事象に応用できることがあります。
芋づる式にすることで、脳のメモリも節約できますよね。
   
固定観念、既成概念に関しては、クリエイティブ業界では「インサイト」という言葉と密接にかかわる単語だと解釈しています。
クリエイティブにつきものなのは「アウトプット」、つまり外部へ向けての発信です。スライドなどでは一瞬の出来事かもしれませんが、そこで「固定概念」といった垢抜けない言葉を用いると、わかる人にとっては物悲しい事態になってしまうので注意が必要です。
   
   
「ランニングは早朝」「雨の日はランニングできない」という固定観念をもった筆者が雨降りの早朝に書きました。
それでは、また次回。
   
   


参考
日本国語大辞典』(小学館)



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