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【校閲ダヨリ】 vol.75 「生む」と「産む」


みなさまおつかれさまです。
久しぶりの更新になってしまいました。

昨年の同じ頃に会社を辞め、どうなることかと思った一年でしたが、家族をはじめ多くの方に支えられ、なんとか忙しく過ごすことができました。
心より、ありがとうございます。


さて、ここからは最近私が気になっている単語の使い分けについて少しお話しさせていただきたいと思います。

生む」と「産む」です。


どちらも、「何かをこの世に送り出す」という意味で共通している言葉ですが、世間では使い分けがなされる傾向があるようです。


子どもを「うむ」ときは「産む」?


そうですね。
子どもや動物の卵など、「生命感」のあるものを「うむ」場合には産むが使われる傾向が強いと私も感じています。

そこから派生して、たとえば何かプロダクトを「うむ」というような場合などにも、擬人的に「産む」を用いるような使われ方をすることはあるでしょう。


じゃあ「生む」は?


生む」はより包括的というか、どんな場合にも使えるオールマイティさがあると私は考えています。
生む」「産む」の使い分けを見ると、用いる人の意思を見て取れる場合があるところが興味深いです。


では、次はこの別のかたち「生まれる」と「産まれる」について見ていきたいと思います。


「生まれる」も「産まれる」も、「生む」「産む」のときと同じような使い分けなのかな?


そのように考える方もいるようですが、私はちょっとその点について違和感があります


生む」のオールマイティさはここでも失われていないと感じるのですが、「産む」のほうはよりエッジが立つというか、「見えない存在」が見え隠れするニュアンスがことのほか付加されるように感じるのです。


ちょっと意味がわからない。


お気持ちお察しいたします。それでは例を挙げて見てみましょう。

1. 私は1989年に生まれた

2. 私は1989年に産まれた

どちらも生年を表す文ですが、2のほうは「誰に?」とツッコみたくなりませんか?(私はなります)


産む」は動作主体の行為に含まれる「大変さ」や「苦しみ」などといった潜在的なイメージをまとっている単語なので、どうしても「動作主体」の存在がフィーチャーされます
受動態は「誰かに〜される」という文体なので、よりその隠れている部分が表れてしまうのではないかと感じています。


なるほど、用いる場面や文脈によってはかなり違和感が出る場合がありそう。


そうですね。
もっというと、「生む」は「生まれる」となると受動態というよりは「自動詞vol.25参照)」として自然に捉えられますが、動作主体に重きを置く「産む」では自動詞として捉えることができず、そのまま受動態として考えられてしまうこともポイントなのではないかなと考えています。


みなさまにおかれましてはこの使い分け、いかがでしょうか?

私は普段このようなことも考えつつ、校閲の指摘入れをさせていただいておりますが、校了や締切のスケジュール上、指摘の理由まで細かく書けない場面も少なからずあります。
今回の場合だと「生まれる?」とだけ書いて次にいかなければならない感じです。
えんぴつ(黒字)指摘はどちらでも良いということだよね」という捉え方をされて流されてしまうには少し悲しい単語もあるので、今回はお便りを通じてご説明をさせていただきました。


また、「初めて校閲を入れてみる」といった場面でおすすめしたいのは、校閲完了(納品)から校了・締切までに半日〜1日の時間的ゆとりを確保することです。
特に広告やウェブ媒体など、出版とはいままでかかわりがなかった方にとっては、校閲者の指摘を読み解くだけでかなりの時間がかかってしまうと思いますし、店舗情報など、校閲者から「こちらで調べたことと違うのでもう一度確認をお願いしたい(要確認)」などの指摘が入っていることがほとんどだからです。(おそらくですが、ご自身が想定されている量の3〜5倍はあるかもしれません)


校閲は、「入れなくても発行できる」サービス業です。
そんななか、プロダクトのクオリティをより確かにしたいと我々を頼ってくださるみなさまがいらっしゃいます。
決して安い買い物ではございませんので、その商品(納品されたもの)を余すことなく使っていただきたいのです。
私に関していえば、自分の入れた指摘は100%ご説明することができますので、どうぞお気軽にご質問いただきたいと思っております。


後半は、校閲の取り扱い説明書「はじめに」のような内容になってしまいました。
みなさまから「産まれる」プロダクトが、最高の状態で世に羽ばたけるよう、2023年もお手伝いさせていただくことができましたら幸いです。


それでは、良いお年を。

2022年大晦日
初頭五餅校閲事務所 代表・伊藤剛平


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