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【校閲ダヨリ】 vol.72 絵文字のこと



みなさまおつかれさまです。

新年度が始まり早1週間が経ちました。学校も、そろそろ入学式というところが多いのではないでしょうか。
個人的に、春は、言葉の持つ力をことのほか体感する(してしまう)季節ではないかなと感じています。

特に入学や就職、クラス替えや異動など、新たなステージに進む方にとっては、ワクワクや不安のもとが「言葉」ということが多いのではないでしょうか。
「また自己紹介するのか……」(私はこれでした)、「先輩にきついこと言われたら……」、「ビジネスメールのマナーがわからん」などなど、
人それぞれの感情が敏感になる季節・春。

これは「変わらない側」も、ある種同様の悩みを抱えていることが多いです。
「思わず『ふーん』で流してしまった」、「ちょっと厳しく言いすぎた」、「会話のリズムがつかめない」
仕事はできてもコミュニケーションのプロである人は本当に少ないので、みんな悩んでいます
かくいう私もコミュニケーションで失敗しないということはなく、日々勉強をしている感じです。

言葉には、プラス・マイナスそれぞれの力があります。(態度や表情など、ノンバーバルの要素は言葉の力を増幅する追加効果があります。)
そして、家族ですら口に出さずに感情(気持ち)を共有するのは難しい
いつもよりはちょっと大変ですが、春は特に「伝え方」を意識することで、生きやすくなるかもしれないと私は思っています。

新生活をスタートさせた皆さん、迎える皆さん、それぞれがうまくいきますように。



——まだ本題に入っていませんでした。

今回は、「絵文字」について考えてみたいと思います。

私が携帯電話を手に入れたのは高校合格時。そこから現在まで20年弱の携帯電話(ガラケー・スマホ)歴があります。
絵文字との付き合いも同じです。

ですが、ここ数年でしょうか、絵文字を目にする機会が減っているように感じています。
使わないことがブーム」のようにも思えているのですが、そのあたりは世代によっても捉え方が違いそうですね。

絵文字は、古くは「文字発生の初期の段階」として、象形文字よりも古い歴史を持っておりますが、今回扱うのはその絵文字とは異なる概念の「絵文字」ですね。
始まりは1999年NTTドコモがリリースした176種類からスタートした「絵文字」。(これは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の収蔵品になりました)

現在では、もう数も分からないほど多くの種類があり、「表情😮‍💨」「天気🌥」「国旗🇯🇵」「食品🍔」「アイテム🕶」など、絵文字だけでできる会話もありそうなほどです。


「使う人」「使わない人」の傾向もあると思うのですが(これも調べてみたら面白そうですね)、今回は「絵文字🤧」がもつ表現効果について焦点を当てたいと思います。


絵文字の表現効果……。
「華やかになる」。ほかに何かある?


🎉🎊👀確かに。絵文字がたくさん並ぶ文面は、いかにも華やかです。🦀🐶🌸

私は、絵文字は大きくふたつのカテゴリに分けられると考えています。
人間の表情や動作、感情に関係するもの」と、「それ以外のもの」。
今回取り上げる絵文字の表現効果の大きなものは、「人間の表情や動作、感情に関係するもの」に属します。


人間の表情や動作、感情に関係するものって、
こんなやつ?😊😵🙌👌💔


そうですね。
人間の動きや表情の絵文字は、「書き言葉では表現しづらいノンバーバルな要素」を補うことができる効果があります。



ノンバーバルって?



声色」「」「表情」「態度」などといった、「言葉(バーバル)以外」の要素のことです。
話し言葉では皆さん特に意識することなくノンバーバル要素を含めたコミュニケーションを行っているのですが、文字でこの要素を付加しようとすると、小説の描写のようにかなりの字数が必要になってしまいます



確かに。
「うん(恥ずかしさが勝って君の顔を見ずに)」とかって打たない。



でしょう? その点、絵文字を使うことで微妙なニュアンスを出すことができるのです。
けれど、使うか使わないか、使う場面と使わない場面があるかは、皆さん次第ですし、私がそこに言及するのもおかしな話です。
便利なものではありますが、ビジネスなどかしこまった場面ではそのポップさゆえどうしても使うわけにはいかないということもあるでしょう。


ビジネスでは使えないな。
でも、最近はLINEでも使う人が少なくなっている
印象がある。



なるほど。絵文字がないやりとりで、どんなことを感じますか?


うーん、なんというか、冷たい感じがするかも。



それは、書き言葉の特徴ですね。
書き言葉にはノンバーバルな要素がほとんどないので、基本的に「話し言葉よりも熱量が下がる」という特徴があると私は考えています。


特に、短文。

長文は、物語や論説文などコンセプトがあらかじめ決まっているものが多く、「多数に向けて」発信される場合がほとんどなので、そもそも感情について求められていないというものもありますし、物語では字数的に「説明の余地がある」場合が多いので、ノンバーバルな要素をカバーしていることもあります。
小説では、「書いていないところに読む楽しさがある」とも言えますよね。
また、印刷をするものに関しては、昔であれば活字、現在ではフォントが印刷所になければそもそも入稿の段階でNGです。(よほど絵文字を入れたい場合は画像化すれば組み込めますが、権利の問題もありそうです)


短文は、たとえば詩などは多数に向けて発信されるものですが、個人や小集団に向けて発される場合が多いです。
対象が明確なんですね。
なので、自然と相手がどういう気持ちでそれを言っているのか気になってしまう
そこに「ノンバーバル要素なし」が加わることで、温度感として低く感じられてしまうのではないでしょうか。


ふむふむ。
……あ、感嘆符「!」や疑問符「?」って、表すものとしてはノンバーバルの要素な気がするけど、そのへんはどうなの?



表記記号」のことですね。
」「」「」などは表記記号というくくりで呼ばれますが、これらは絵文字に似たような機能があります
多くは音声にひも付き、イントネーション無言の表示など、「表現意図や音の表情を視覚的に表す」(日本語学大辞典)とされます。
もともとは欧文由来ですが、日本では明治20年(1887年)頃から二葉亭四迷、尾崎紅葉、山田美妙などによって使われはじめたようです。



感嘆符、疑問符は絵文字に比べたらビジネスの場面でも(相手によっては)使えそう。



そうかもしれませんね。欧文活字が既に存在していた点、作家が積極的に使用したことで、使うことに対する意識のハードルが下げられた点から、社会への浸透スピードが絵文字とは比にならないくらい速かったのではないかと考えられます。
「ビジネスの場面でも(相手によっては)使えそう」とおっしゃいましたが、実は公用文においても使用が認められることになったんです。


ほかに、絵文字に似た表記方法としては「(笑)」「(泣)」などがありますが、これは雑誌など印刷物先行で広まっていった表現方法のように感じられます。
現代では、ここから派生して「(カッコなし)」「w」「」などを見ることができます。
人は、どうにかして端的にノンバーバルの要素を書き言葉に盛り込みたいのかもしれませんね。



さて、絵文字からはじまり「」まできてしまいましたので、そろそろこのあたりでまとめに入りたいと思います。

絵文字の大きな表現効果は「ノンバーバルの要素を補える」ことだと考えます。
また、それはチャットなど書き言葉特有の冷たさを感じやすい短文において特に効果を発揮してくれるでしょう。


ですが、「過ぎたるはなお及ばざるが如し😭」。
使いすぎ、使わなすぎ(もしかすると、こちらの場合もあるかもしれません)によって、肝心の伝えたいことが薄まってしまわないよう気をつけたいものです。


それでは、また次回。



参考
日本語学大辞典』(東京堂出版)
日本国語大辞典』(小学館)
公用文に「?」「!」使えます!…国家公務員向け手引、70年ぶり見直し」(読売新聞オンライン)



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