【校閲ダヨリ】 vol. 37 まぬけ引用符というパワーワード
みなさまおつかれさまです。
今回は、ちょっと私の専門外の言語のお話になります。
しかし載せている情報は使用に耐えるものですので、ご安心してお読みになっていただければと思います。
さて、街で時たま見かけるのですが、外国の方がちょっと微笑ましくなるような漢字Tシャツを着ていることがります。
画像検索してみると「自己嫌悪」「烏賊(イカ)」「痔」「婚活」「手術」など、そうそうたるラインナップを見ることができますが、これは単に日本における外国人だけの話ではなく、我々が着ている欧文Tシャツでも同じようなことが言える場合があるんだと感じています。
(私はよく「WRESTLING IS SACRED SPORTS(レスリングは神聖なスポーツ)」とか「GIRLS WRESTLING(女子レスリング)」と書かれたTシャツを着ています。レスリングをやっていたので、私の場合はこれで良いのだと思っています)
先で専門外と書いたのは、これからするのが英語のお話だからです。
文法的な話になると私よりもお詳しく、専門に研究していらっしゃる方がたくさんおり、本や論文も数多く出ていますのでそちらをお読みいただくとして、私が述べるのはどちらかというと体裁の話になります。
以前、「カギカッコの使い方」というタイトルで記事を書いたことがありますが(vol. 29 参照)、それの英語版みたいな内容です。
和文で、何かを引用したい時には「 」や『 』を使用しますが、これは英語でも同様に “ ” や ‘ ’ を使用して表します。
“ ” のことを「ダブルクォーテーションマーク」、
‘ ’ のことを「シングルクォーテーションマーク」といい、「 」の中は『 』のように、使い分けがなされています。‘ “ ” ’ なのか “ ‘ ’ ” なのかは、アメリカ、イギリスで差異があるようです。
では、タイトルで挙げた「まぬけ引用符」とは一体どういうものかといいますと
' ' や '' '' といった「垂直な符号」のことを指します。英語では「Dumb quotes」などと呼ばれており、文字通りのまぬけ引用符です。
「そもそも垂直符号がなぜ『まぬけ』になったか」というところまで話を戻しましょう。
これは、タイプライターの登場に起源があるようです。
それよりも前は、純粋に ‘ ’ といった曲がった引用符が使われていました。
これは、2種類の記号ということになります。タイプライターでは打つ人の負担を軽減するため、キーのスペースを節約するためといった理由から ' の記号に置き換わることになったようです。こうすると、曲がり方の差異がなくなり、1種類の記号で済みますよね。向きの差異もないので、打つ人の気持ちもラクになります。
しかしこれは、純粋主義の人たちから見ると「手抜き」の記号ということで、まぬけ引用符と呼ばれるようになったようなんです。
現在はコンピューター上で文字・記号が管理されているわけですが、残っていますね。ちなみに、英訳をする人たちの間では ' のほうが使いやすいという方もいらっしゃるようですし、プログラミングをするときには ' でないとコンピューターが正しく反応しないということもあったりします。
言語の世界にはなかなか間違いと言い切れる事項は多くないのですが、こちらのまぬけ引用符は欧米ではそれに該当しているとされることがあるようです。
なぜかというと、『The Chicago Manual of Style』に、「公開された作品は、曲がっている ‘ ’ を使用する必要がある」と明記されているからというところが大きいのではないかと考えます。
このような感じで、マニュアルには載っています。
『The Chicago Manual of Style』は、シカゴ大学において論文執筆の際などに体裁を整えるために構築された記述ルールなのですが、現在まで次第に影響力を強め、スタンダードになりつつある統一表記ガイドラインです。
他のスタイルガイドを見ることができていないのでなんとも言えないところがあるのですが、私個人的には「間違い」は少し強い表現なのかなとも思います。実際に、それが広く使用されていた時期もあるわけですし、意味が通じなくなってしまうわけでもないですので。
これは、日本語で言うところの「歳」と「才」に似た印象を受けます。(テレビ放映が始まったとき、解像度が低く「歳」だと潰れてしまうという理由から「才」に置き換えたという経緯があります)
さて、「結局のところどうなんだ」という話にまたなってしまいそうですが、言語というのはこういうものです。
『The Chicago Manual of Style』など、各社・各人よりどころを決めた上で、それを正とするのはもっともなことだと私は思います。
最後におまけ的にひとつ、これは明らかにおかしいという話をして、終わりにしたいと思います。
今度は、日本語の話です。
縦組みにおいて、ノノカギを使いたい場合があるとします。その際に、ダブルクォーテーションを使用して下のように表すのは非常に座りがよろしくありません。
まぬけ引用符より、まぬけに見えてしまうかもしれません。
なぜかというと、「始まりと終わりが逆転しているから」です。(よく、形を見てみてください)
これは、わかりやすくカギカッコを用いて表すと、こうなっています。
たまに書店で見かけると、記念に収集したくなるのです。
※正しいノノカギは、こちらです。
それでは、また次回。
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