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デザインと組織運営──社員1万人にデザインの価値を実感してもらうために

KOELの代表である土岐が、先日開催された『クオリティフォーラム2023』にお招きいただき「デザインをどのように企業の中に浸透させてきたのか」について講演を行いました。

クオリティフォーラムとは、一般財団法人 日本科学技術連盟が毎年開催している「品質経営に資する」ことを目的としたイベントです。品質経営とは、製品それ自体のみならず企業活動の全てにおいて品質を追求することで、顧客価値を創造し、進化させていくことを目指す経営の考え方です。

今回土岐は「デザイン思考と顧客価値創造」というテーマでの講演をご依頼いただきました。「新しくまだ知られていない考え方、概念」の価値を組織にどう浸透させていくのか、どう実践するべきなのか。デザイナーの方だけでなく、サービス提供者としてデザイン思考を社内にどう広げられるのか、組織に対して何らかの働きかけをしているけれど突破口が見えない、といった方にヒントをお届けできたら幸いです。


非デザイナーとして取り組んだデザイン思考

KOELの土岐と申します。現在はNTTコミュニケーションズのイノベーションセンター デザイン部門「KOEL」の代表として、デザインの効用を経営層へ伝えて結びつけ、事業に資する活動として広げる取り組みをメインに行っています。

まず最初にお断りさせていただきたいのは、私自身は元々デザインに携わっていたわけではありませんでした。2003年に入社した時は、ネットワークやソフトウェアの開発エンジニアでした。以降様々なサービスの企画、開発、運用などに携わりまして、デザイン部門に配属になる直前は会社全体の人材育成の責任者でした。
デザイン思考との出会いはちょうど人材育成に携わっていた時です。社員のために様々な施策を実行したのですが、思った以上に社員に受け入れてもらえませんでした。正直苦しかったです。そんな中で「ユーザーと向き合い、求められるものを探し当てて、施策に昇華させる」という考え方(=デザイン思考)に出会い、見よう見まねで取り入れてみたのが始まりでした。

結果、想像以上の変化を感じました。嬉しかったのは、社員から感謝の言葉をもらえたり、一緒に取り組む仲間が自信を持って施策に取り組めるようになったことでした。更に嬉しかったこととしては、そこで実施した施策が5年以上経った今でもしっかり根付いていることです。私自身のこの体験からも、デザインは、実はデザイナーでなくても誰もがすぐに取り組めるものだと実感しています。

組織がデザインを取り入れられるようになる4つのポイント

今回お話ししたいのは「どうすればデザインという概念を知らない組織が、デザインを受け入れられ実践できるようになるのか?」そのための実践のポイントについてです。

同様の課題を持った組織では「やるべきであることはわかる」が「諸々の細かい反対意見があって進まない」という状況が多いのではないでしょうか?こういった課題に対して私たちは「組織内の適切な人材から共感を得て、中から変革していく」ことで対応してきました。そのために特に私自身が重要だと考えている浸透のポイントを4つお話しさせていただきます。

デザインを知らない組織を
変革するためのデザイン浸透
4つのポイント

浸透のポイント1:クイックウィン(成功事例)を出せるか考える

1つ目の浸透ポイントは、兎にも角にも「デザインの成功事例」です。デザイン活用の意味と意義を知ってもらい、共感する社員を増やすためにも、クイックウィン(成功事例)を出せることが大切だと考えています。

その際に気をつけたいのがデザインの成果に対する適切なテーマ設定です。現場に寄り添うあまり、社内で共感されないテーマを選定してしまうと、現場にはすごく感謝されても、部門長のような組織を動かすキーマンには響きづらく、結果として組織を動かすところには至らない。弊社にはこれだけの事業組織とスタッフ組織があります。会社の全社の事業戦略から、事業組織の状況と人をよく理解して、事業の変化から適切なテーマを設定していくことが重要です。

会社全体の中でどこに入り込むとレバレッジが効くのかを考えましょう。私たちは事業戦略や経営課題を鑑みた結果、まずはデジタルプロダクトを担当する組織の支援から着手して、現在では社外企業との共創を担当している営業組織などへ浸透活動を広げています。

浸透のポイント2:デザインプロセスの標準化

デザインを取り入れて、良い成果が出たね、で終わってしまうと意味がありません。デザインプロセスを暗黙知から形式知に変えることで、標準化していくこと、そして標準化したプロセスを活用できる人材を育成することも同様に大切にしています。「事業に寄り添い、使われるデザインプロセス」を作るために、ノンデザイナーとデザイナーがワンチームで業務推進をするということをお勧めしています。

事業開発事例として、オンラインワークスペース「NeWork」をご紹介します。

コロナ禍でテレワーク化が進む中、ワンクリックで気軽に話せることを実現したサービスで2022年グッドデザイン賞を受賞しました。実はこのNeWorkは企画から開発までわずか三ヶ月でやりきった事例です。まさに事業に詳しいノンデザイナーとデザインに詳しいデザイナーが協力して、行動観察からプロトタイプの制作までを実施し、かつ形式知化した案件です。

NeWorkにおけるデザインプロセスの実践:ノンデザイナーとデザイナーがワンチームで開発を推進
オンラインワークスペース「NeWork」開発のデザインプロセス

本サービスのリリースが「デザインプロセスを含めて、短期間でサービス開発を実現できた」という成功体験に繋がっています。その後もこのサービスを習うようなプロダクトが増えていきました。実施したことを周りにどんどん伝える活動があれば、組織内にデザインの実践を伝播させていくことができると学んだ事例です。

さらにデザインプロセスを根付かせていくためには、事業組織と協力しながら、学習と実践と成果報告会のサイクルを何度も回し続けることが必要です。

組織に定着するデザインプロセス:ノンデザイナーとデザイナーの暗黙知を形式知化
学習・実践・成果報告会を通じた組織内での形式知化を目指す

弊社では上期と下期でこのサイクルを2回転させています。また、標準化したデザインプロセスを全社の中に適用することも、タイミングを見計らって実施しています。注意しておきたいのは、先にルールだけを全社に広げてしまうと、事業部の活用が追いつかず形骸化してしまうことです。事業組織の現場に根付いたタイミングでルールを変更するのがポイントです。

「デザインの成功事例づくり」や「デザインプロセスの標準化」を実践する際に大切なマインドについてもお伝えします。”まずはやってみる” ということです。

大切なマインド "まずはやってみる"

まずは「相手の立場、気持ちを考えて、心地よい体験を設計し実践する」
そして「自ら手を動かす」。弊社ではこれを新入社員研修などで、最初にデザインに関わる社員へ伝え続けている内容です。ぜひご自身の取り組まれている施策や、業務を思い返してみてください。今日から行動を変えていくだけも、デザインに取り組めていると言えるのではないでしょうか。

浸透のポイント3:目標設定と評価

弊社ではデザインに共感するメンバーが増え続ける一方で「管理者側がメンバーの取り組みを理解できない」「どう目標設定や評価をしたらいいのかわからない」「無駄なことを実施しているのではないか」という声が、社員と管理者の両方から出てきました。そこで、デザイン業務の目標設定と評価に関する研修を企画・実行しています。

ミドルマネジメントの巻き込み:デザイン業務の目標設定・評価が特殊ではないことの理解
プロセス・アウトプット・アウトカムの3点からデザイン業務の目標設定・評価を行える

私自身ももともと人事におりましたので、人事担当が定める評価制度からずれないように、デザイン業務を適切に目標設定評価できることを目指しました。最終的に得られる計測可能な成果であるアウトカムに対して、アウトプットとプロセスの内容に対して目標設定と評価を実施できます。

各管理者に対しては「デザインだからといって特殊な業務ではない」ことを、丁寧に紐解いて伝えていきました。具体的には、事業組織で標準化したプロセスに対して目標設定と評価の事例を参考にしながら、各管理者に部下の目標設定を実際に作成する集合型の研修を実施しました。研修の実施後、管理者からも「従来の業務同様にKPIを定める評価方法の本質は変わらないことが理解できた」という声も上がっています。

また「デザイン思考や評価の仕方について体系的に理解するだけではなく、同じ悩みを持つ管理者と評価連携の仕方や考え方について認識を合わせられた」という声もいただいています。数名のチームに分かれて実践型の研修を実施したため、管理者同士でデザインに関する認識の違いや、どのように目標設定や評価をしたらいいのかを共に考えることができました。このような研修もデザインを浸透させていくには有益だと実感した例でした。

浸透のポイント4:経営層の理解不足解消

最後、4点目の浸透ポイントについては、「経営層の理解不足解消」です。これは私自身が本当に日々悩みながら推進しています。

具体的には経営層にデザインをご理解いただいて、支援を得られるようにすることを目的としています。目先の数値に追われてしまうと、新しいことを実施することへの障壁が高くなるように思います。また、中長期で良い結果を導き出す施策があったとしても、これまでの成功体験を超えるような説明がないとなかなか施策の価値をご理解いただけないな、と感じることもあります。

ただ、これまでのいろいろな取り組みを通じて、共感いただきやすい情報がいくつか絞られてきました。

経営層に対してもデザインの理解を進める取り組みを多角的に行う

まず「ビジネスとの両立」です。事業の変化を読み取って、適切なテーマ設定をすることで経営幹部の方々にもデザインの効用といったものを伝えやすくなります。

次に「取り組みの認知拡大」です。支援件数や育成人数、貢献収益など、何かしら定量的に伝えることが大事です。

デザイン価値の証明」も重要です。お客様や社員の声をダイレクトに経営幹部に伝えています。またニュースリリース経由でも、プロジェクトに対して我々の活動がどう寄与したのかが正しく説明された情報を外に発信するよう気をつけています

そして「業務プロセス変革」既存の業務プロセスをどのように変更することによって何が変わっていくのか、そのビフォーアフターをしっかりと視覚的に見せるっていうことも伝えるためには必要だと考えています。

最後に「デザイン手法の使いこなし」です。一定以上の品質を担保して、そのデザインの取り組み自体を向上させていくためには、良いお手本が必要です。外部にそれを求めてもいいですし、パートナーや社内から示すことでも構いませんが、何にせよいいものを見ないとわからないものですので、幹部層に触れてもらう機会を作っています。

これらをインプットし続けることによって、経営者に組織の変化を実感してもらうことが重要です。最近とある事業組織の組織長が、「デザインは当たり前の取り組みにしたい」と組織に語ってくれていました。これまでの活動が報われたようで嬉しい発言でした。

以上が業務プロセス変革に取り組み続けた3年間のお話でした。
最後にまとめると3点になります。

1点目は、組織内の適切な人材から共感を得て中から変革することです。
2点目は、浸透のポイントとしてクイックウィンですね。デザインプロセスの標準化、目標設定と評価、経営層の理解不足解消が大事です。
3点目は、とにかくまずやってみるということです。相手の立場、気持ちを考えて心地よい体験を設計、実践する、そして自ら手を動かすことです。自分自身の行動変容だけでなく、結果として周りの人たちを動かすことにもつながると思っています。

社員30万人にデザインの価値を伝えていく

NTTグループに広がる「お客様体験ファースト」を目指す取り組み

最後に、今後の展開について。弊社の取り組みは、NTTグループ全体にも広がっています。社員1万人と言っていますが、グループ全体で見ると30万人にのぼります。持株会社であるNTTの中期経営戦略資料の中でも、「お客様体験ファースト」宣言が軸になっていて、今まで我々が推進してきた顧客志向と同義だと考えています。

我々KOELのビジョンは、使われるデザインを通じて、製品志向から顧客志向へのシフトを牽引して愛される社会インフラをデザインしていくこと。十年前に数人が始めた取り組みは、周囲をどんどん巻き込んで大きな流れを作りました。まさに「挑戦し続けずして成功なし」だと思っています。
表面化するデジタルに対して、苦手意識や不安などをなくして、意識せずに自然にデジタルサービスを使いこなせる世界を目指しています。

公共とビジネスを跨がるセミパブリックな領域を含めて、社会のインフラ的な課題を多発的に解決していくことによって、企業の発展や日本の発展、持続的な社会の創造につながると僕自身は信じています。今後も「まずはやってみる」というマインドで挑戦していきたいと考えています。本日はありがとうございました!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回の発表を通じて、皆さんがデザイン浸透や新たな取り組みに対して、志や強い想いをもって組織に働きかけようとする時のヒントにしていただけたら幸いです。

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