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うるう日のお話。

うるう年……西暦年数が4で割り切れる年がうるう年。
ただし100で割り切れる年は平年だが、400で割り切れる年はうるう年。
うるう日……うるう年の2月28日の次の日がうるう日。

2024年2月29日(木)は、うるう日。
2月29日生まれの誕生日のあの人といえば?
そこから、私は高校生を誕生させました。

とある教室で

あの人の誕生日


あと5分で、2限目の授業が始まる。
次は、世界史だ。牧野先生が来る前に教科書を出しておこう。
琴音はそっと教科書とノートを揃えておく。
その時、後ろから男子たちの声が聞こえてきて、
思わず聞き耳を立ててしまった。

「なぁ、湊。そういえばお前、今日誕生日じゃね?」
「あぁ。俺はやっと4歳だな。」
「まじかー。じゃあ、俺はだいぶ先輩だな。風太先輩と呼んでいいぜ?」 「ぜってー呼ばん。っていうかさー、これ何回目のネタ?4年ごとにこれやるのかな、俺たち?」
「いいじゃん、レアで。俺なんか3月3日生まれで毎年耳の日だぜ?」
「3月3日ならひな祭りの方が有名じゃね?」
「だからー、俺は男だっつーの!なんでおひなさまムードに流されないかんの?耳でいい。耳で! はぁ、お前がうらやましいぜ。ずっと、ネタになるし、80歳のじいさんでも20歳のぴちぴちだぜ?」
「いや、さすがに体は衰えるって!っつーか、今の発言、コンプライアンス的にどうかと思いまーす。」
このやろって風太が湊の頭を抱え込んで笑いあっている雰囲気を背中に感じながら、琴音は、思う。
そっか、湊くん今日が誕生日なんだ。2月29日。

がらっ。
牧野るり子が教室に入ってくる。
この先生の授業は面白い。 いつも小ネタを挟んでくれる。
教科書にはのっていないやつを。

「はい、みなさん。今日は何の日か知っていますか?」
すると、お調子者の風太がすぐに答える。
「湊の誕生日―!」
教室がざわつく。
へぇー珍し。2月29日とか。
同級生にいたんだね。
えー、湊くん今日なんだ。
おめでとー。
いろいろな声が聞こえてくる。
あ~ぁ、みんなには知らせてほしくなかったな。

「あら?佐藤君もなの?うちの息子と同じだわ。おめでとう。」
えー、牧野先生、息子さんいるんだぁ。
いくつ?
話題がそれた。少し、ほっとする。

「ふふっ、みんなはうるう年ってもちろん知ってるわよね?
だから、今日誕生日の子は4の倍数の前に生まれたはずね。
もう推測つくでしょ?高校生なんだから。
ほらっ、自分の頭を使って考える!」
牧野先生の口ぐせはいつもこれだ。
ほらっ、自分の頭を使って考える!

そんなこと言われても、暗算とか苦手なのに。
別に、そこまで知りたいわけじゃないし。
琴音は、すっと思考を止めようとした。

「そういえば今日ね息子が騒いでたの。やっともらえた!って。」
えー、先生まさかプレゼント4年に1回とか?
「かわいい息子にそんなことしないわ。もらえたのは、ゲームのログインボーナスよ。誕生日のログインボーナス。どうやら、去年はゲーム内のカレンダーのシステムエラーで2月29日が認識されなかったらしいのよ。
これ、みんなはどう思う?」
牧野先生は、最後の方をわざとゆっくり語りかけていた。
それにともない教室がまたざわつく。
それ、かわいそー。
誕生日なんて別日に設定すればよくね?
ってことは、湊くんもそーなの?
カレンダーシステムって何?
「そう、カレンダーよ。今の暦はね、1582年にそれまでのユリウス暦に替わり、ローマ教会が定めた太陽暦がグレゴリウス暦なの。じゃあ、教科書を開いて。ページは…」
いつものように、みんなの興味をぐっとつかんで世界史の授業が始まった。

琴音は考えてしまった。
2月29日のこと。
湊くんの誕生日であり、
4年に1度の特別な日であり、
ネタになるような日で、
ちょっと暦のシステムエラーがうまれやすく、
ヨーロッパの誰かさんが決めた日。

誰かさんが決めてくれたおかげで暦は機能するけど、
誰かさんが決めてくれたおかげで3年も存在が消えてしまう。
調整するために。
何か、最近読んだミステリーに調律しなければいけないって言って人が死んでいくやつあったな。あれみたい。ちょっと怖い。

世界史の授業が頭に残らないまま、終わりの時間になった。
後ろでは、また男子の会話が聞こえてきた。

「にしてもさー、3年も誕生日ボーナスもらえないなんて罪だよな罪。
かわいそーな湊くん。」と風太がからかっている。
「ったく、大丈夫だっつーの。俺のやってるやつはもらえる!たださ、
ああいうの聞くとなんか、調整したくなるな。」
「は?」
「だから、誰かさんが決めた日付に縛られるシステムなんて壊してやりてー。そんで、もっといいシステムを作りたいなって。」
「ほー、すっげーこと考えてんな。お前にできんのかよ?」
「……ま、おれ4歳だからな。時間はたっぷりある!」
男二人でふざけて笑い合いながら廊下へ出て行ってしまった。
次は音楽だ。

琴音は思う。
今日という1日が、誰かさんにとって素敵な1日であれば
それでいいのかもしれない。
ぼーっとしていたら、急に後ろから肩を叩かれた。
「琴音。一緒に音楽室に行こー♪
ねぇ、そういえば湊君も誕生日が今日みたいだけどさ、
作家の辻村深月も今日なんだってー。すごいよねー!」

あとがき

2月29日のネタ探しをしていたら、ちょっとお話風にしたくなりました。
本文は、作家の辻村深月さんの誕生日が今日という所から妄想を膨らませたものなので、湊も琴音もこの世には存在しません。調律のミステリーだけは
浅倉秋成さんの小説「教室が、ひとりになるまで」をイメージしました。
こういうの創るの初めてなのでどうやるんだろう?ってまだまだ試行錯誤中ですが、これもまたおもしろかったです。ただ、時間がかかります。
書くことの新しい可能性を試しながら引き続きnoteを頑張りたいと思います。いつもと違う文体ですが、楽しんで頂けたら幸いです。

今日という1日が、素敵な日になりますように。


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