世界子どもの日によせて 2023
11月20日は、世界子どもの日。そして、子どもの権利条約の誕生日です。1989年のこの日、国連は子どもの権利条約を制定しました。この記念日に、今年も「子どもの権利・きもちプロジェクト」のメンバーで、それぞれメッセージを書かせていただきました。読んで頂けましたら幸いです。
2022年、1年前の秋に『きかせて あなたのきもち』の制作スタッフの中から有志四人で「子どもの権利・きもちプロジェクト」を立ち上げ、昨年も同じ日にメッセージの言葉を書きました。
その後、2023年の頭には、育児情報誌の付録絵本で、初のプロジェクトの著作をリリース。6月に単行本『ようこそ こどものけんりのほん』として刊行。そして、取材、取材の日々。夏休みから秋にかけても、原画展、ワークショップ、トークイベントなど、さまざまな場所で活動してまいりました。
ひるがえって、日本を世界を見渡せば、子どもたちは以前にも増して、厳しい状態におかれていることを感じます。ガザの死者の4割は子どもである、とも言われる戦争はたったいまも進行中です。そのことを肝に銘じて、子どもの権利・きもちプロジェクトは足元の日々の生活の中に「子どもの権利」を沁み渡らせてゆけるよう、こつこつと等身大で活動していきたいと思います。こんごとも、いっしょに歩いていただけましたら嬉しいです。
★momo (アーティスト•社会福祉士)
子どもの権利条約って、北極星みたいだなと思うことがあります。私たちが道に迷っても、闇が深くなろうとも、いつも変わらず目指すべき方向を指し示してくれている。そして、子どもという存在を通じて私たちにおとなに人権の尊さを教えてくれます。
いま私は、命を大切にしているだろうか?差別をしていないだろうか?格差はないだろうか?小さな声に耳を傾け、その人にとって一番よいことを一緒に探そうとしているだろうか?
絵本を刊行して以来、人権という言葉が大好きになりました。人権を尊重する「人権メガネ」を掛けて日常の出来事やニュースを眺めてみると、それまでとは違う見え方や感じが広がっていました。
私はいま、子どもたちに自分を大切にする姿を見せられるおとなでありたいなと思っています。子どもたちにとって、社会や私たちおとなの姿が環境であり世界だからです。そのために日々の暮らしのなかで出来ることを考え続けています。
子どもの権利条約は、先の大きな戦争で失われた多くの子どもたちの命への反省と祈りから生まれました。先達の知恵を私たちはどう引き続き、次の人たちに手渡していくのか…。即時停戦、そしてすべての人の命と自由、そして人権が守られることを切に願っています。
★長瀬正子(大学教員・子どもの福祉)
この一年も、いろんなところで子どもの権利のおはなしをさせてもらいました。こども基本法が制定された今年、日本社会は、子どもの権利を「知る」「学ぶ」段階にあることを感じています。私のおはなしが、誰かにとって、初めて子どもの権利の考えに出会うのだとしたら責任重大です。子どもの権利と良い出会い方ができるように、自分のコンディションを整えて臨むことにしています。
一方で、「知る」「学ぶ」を超えて、今年は新しい風や芽のようなものを感じることが何度かありました。「知る」「学ぶ」の次の段階は、子どもの権利を「使う」「活用する」ことにあるように思っています。日々の生活や実践のなかで、自分がしていることを子どもの権利につなげて考える、言葉にするようなこと。四つの原則をもとに考えたり、意見交換できるようになること。そして、子どもの権利が十分実現できない状況にあったときには「助けて」と発信し、どうすればいいのか仲間とともに考えること。そんな、「使う」「活用する」ことが次の段階としてあるように思います。
そこでは、また新たな悩みがあらわれてきます。「知る」「学ぶ」なかで、試行的に実践を始めた方たちから「もう意見を言うことすらあきらめている子どもたちに、どうやったら声を出してもいいのだと感じてもらえるのだろう」「どの権利を優先して考えたらいいのか分からなくなる」といった問いを投げかけられ、私も一緒に悩み、考えました。変化し続ける状況に、何ができるか、プロジェクトのすべきことってどんなことだろうと考えています。
新しい考えを取り入れ、生活のなかで実践する。それは、未知の領域です。その分の悩みも増えるけれど、一人ひとりが大切にされる社会に近づいていく歩みのなかにいるのだと思います。今の現実がとても厳しいものだとしても。今年も、子どもの権利との出会いをどんなふうに創っていけるか、考え続けたいと思います。
★中村真純(出版社 絵本編集者)
「子どもに寄り添う」ということばを、よく耳にするようになりました。でも、「寄り添う」とは?という本質について、考えるのはなかなか難しいですね。
「寄り添う」ことは、「違うことを理解する」ことだと、最近私は考えています。なんだか矛盾するようですけれど。
自分の子育てを振り返るとき、私自身は、「こうすべき」にとてもとらわれていたと感じています。周りの目を気にしてその価値観にとらわれ、「自分が」きちんと子育てしていると思われるように、子どもに対していろいろなことを押しつけていた、そんな親でした。目の前のこどもに向き合うことが、出来ていませんでした。
「あなたはどうしたい?」「私はこうしたい」というふうに話をすれば良かったのだと、いまなら思います。当時の自分は、相手の意見を聞くことも出来ていませんでしたが、同時に、自分の意見を言うことも、出来ていなかったんだろうな。
「子どもの権利」について、私もまだまだ学びの途中にいます。子どもに限らず、人と関わるときに、相手を自分とは違うひとりの人として尊重できるかどうか。それが、「権利」という視点なのかなと理解しています。
相手が自分とは違う人間だということを理解してはじめて、「寄り添う」こともできるようになるんでしょうね。
★山縣彩(フリーランス絵本編集者)
今年の最初に、育児情報誌kodomoeの付録絵本として、プロジェクト初の著作を発表させていただける機会があり、構成と編集を担当しました。
付録は、雑誌のおまけです。だから、「子どもの権利」に興味があったりなかったりする、さまざまな子育てする大人が数万人、手にとってくださることになりました。なかなか稀有なことでした。
ふだん、「子どもの権利」とうたったイベントをしたり、単独で書籍を出版するときは、ある程度興味のある方が意識的に見つけてくださることになりますから、「子どもの権利」ってだいじだよね、という共通認識がすでにあることが多いのです。でも今回は……
ドキドキしながら、付録号の発売をむかえるとすぐに、たくさんの反応が、寄せられました。読者ハガキはもちろん、編集部へ電話がきたり、SNSでつぶやかれたり。その多くはお母さんでした。「子どもの権利大事だよね」という方も、たくさんおられましたが、「わかっちゃいるけど、実生活では厳しいよ」「権利には義務がつきものですよね?」「子育てに余裕のない自分が責められている気がしてしまう……」などなど。それは赤裸々で、真摯な言葉たちでした。
溢れ出る想いを受け止めて、プロジェクトメンバー一同、ひとつひとつに応答したい気持ちでいっぱいになりました。
「ちがうちがう」「そうじゃないですよ〜」
お母さんが自分を責めることは私たちの本意ではありません。お父さんが(SNSで反応していたお父さんは皆無に等しかったです)、子育てに関わる人々が、社会全体が、いっしょに子育てしなくちゃいけないのです。山のてっぺんから「それは、子どもの権利条約18条にも明記されているんですよー よー よー……(こだま)」と、声を大にしていいたかった(単行本のあとがきには入れました)。それは、これからいろいろな場面でじっくりお伝えしていきたい。そんな場作りもできたらいいなというのが、わたしたちの新たな目標にもなったのでした。
賛否両論の熱い読者の反響に出版社さんも反応して、できるだけ早く単行本化しましょう!と言っていただくことができ、6月には単行本『ようこそ こどものけんりのほん』を発売。子どもと話し合うと、どうしてもケンカになってしまうという声も多く寄せられたので、冷静に話し合うコツを提案するページを加筆しました。
出版と合わせて、テレビ・ウェブ・新聞などにもたくさん取材していただきましたが、ここでも取材をしてくださるライターさんの「子どもの権利」への小さな誤解をひとつずつご説明していくことになったのも、興味深いことでした。まだまだ、子どもに「してあげる」という上からの視線が主流であることを痛感しました。まずは大人から、なんです。
5月に施行された子ども基本法のおかげで、すこしだけ風が吹いたかな?と思ったものの、まだまだ日本の「子どもの権利」の認知は、ほんとうにはじめの一歩なんだと感じた今年。でも、こうして、おそるおそる投げた小さな石が、波紋となって対話が起こる、そのことこそが大切なんだと思います。こつこつと理解をひろげていく以外、きっと道はない。どうせなら、その過程を楽しみながら進んでいきたいと心から思っています。
\世界こどもの日よかったら、ご覧ください/
えがしらみちこさんとともに『ようこそ こどものけんりのほん』制作について語り合った佛教大学O.L.Cのトークイベント録画「子どもの権利は子育てのヒント」
https://www.bukkyo-u.ac.jp/olc/pickup/20230512/26085.html
NHK京都 京いちにちで取り上げられた『ようこそ こどものけんりのほん』子どもの声と気持ちを大切にする保育現場も取材されています。
【特集】子育てのヒントに 反響呼ぶ“こどものけんり”絵本
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