いつかのメリークリスマス 第二話「急転と自覚」
3.京子の急転、近藤の自覚
「はじめて会った時から、近藤君のことが好きになってんけど。付き合ってくれへん?」
僕の左隣に座っている栗色ロングヘアの京子は、小さな声で、でもはっきりとした口調で僕にそう言った。季節は秋、夕方の公園のベンチで、僕は女子高の制服を着た京子と並んで座っていた。
「もし、迷惑やったら諦めるけど、私が直せるところがあったら直すし」
迷惑でもなければ、直すも何も一度4人で会っただけで直してほしいポイントもわからないが、とにかく『付き合いたい』という明確な意思を理解し、「僕で良ければ」と答えた。
「よかったぁ、断られたらどうしようかと思ってた笑 じゃ、今日から私、彼女やんな?なぁ、初デートせえへん?私、京都とか行ってみたいねん。」
緊張した表情の京子は、一気に笑顔に変わって、饒舌に色んなことを話し始めた。僕は、うんうんと話を聞いた。
しばらく話した後、沈黙になったタイミングで京子は僕の肩に寄りかかってきた。えっと思い京子を見ると、京子も僕の目を見て黙っていた。もうこれアレしかないやん・・・。
こうして京子は、
①彼氏化交渉成立
②京都デート確約
③ファーストキス
という3つの目的をたったの1時間の公園アポで獲得した。
彼女は将来、剛腕経営者になっていることだろう。
僕は猛烈に後悔していた。
いや、京子は色白で端正な顔立ち、OPもほどよく大きい。女子高で出会いがないから彼氏がいたことないだけで、共学ならモテる部類かもしれない。
一方の僕は決してイケメンではないしモテる部類でもない。京子からの告白はありがたいと思うべきであることは百も承知だ。
ただ、好きな気持ちがまだないのに交際OKして、京子のファーストキスの相手になってしまったことにプレッシャーを感じていた。
-交際6日目
京子とはじめてのデートは京都の嵐山。散歩したり、買い物したり、ボートに乗ったりした。
「私は初めてやったけど、近藤君はキスしたことあるん?」
「今まで何人ぐらい彼女おったん?」
「共学やったらやっぱり女の友達とかおるん?」
京子は容赦なしにいろいろ聞いてくる。僕と京子のテンションの温度差は大きく、追及されると逃げたくなるような気になった。
帰り際、京子の最寄り駅を降りて家の近くまで送った。
「今日楽しかったん?」
「ああ・・楽しかったよ」
「ホンマ?なんかおもんなさそうやん。」
「え・・そんなことないよ・・。」
「次はいつ会えるん?」
「うーん、受験勉強もあるし・・、スケジュール確認してまた連絡するわ」
「ふーん、そうなん。」
京子はあからさまに不満そうな顔をし、まだ家の前までたどり着いていないのに
「今日はもう帰る」
と言ってプイっと帰っていった。京子が去って行ったとき、なんだか解放されたような気がした。
ーその日の夜
僕の部屋の窓をコンコンと叩く音が聞こえた。僕の部屋はマンションの廊下沿いにあり、窓を叩くのは誰かが来た合図だ。
やって来たのはポテチとコーラのペットボトルを持ったヒロだった。
「あの子らと連絡とってる?俺はアカンな。美紀ちゃん全然返信してけぇへんし、もうええわ笑」
ヒロはまぁええけどなと言いながらポテチを口いっぱいにほおばり、明日は別の女とデートや!ガハハハ笑いながら、鏡に映った鍛え上げた自分の腕の筋肉を見てうっとりしている。
京子とのことは聞かれたが、適当に話を逸らした。
それよりもせっかく美紀をヒロに譲ったのに、あっさり他の女にターゲットを変更するヒロの身代わりの早さを羨ましくさえ思った。
ー交際10日目
付き合いはじめて以来、京子はほぼ毎日僕に連絡をしてきた。電話で1時間ほど話すこともあった。ただ、疲れてきた僕は少しずつ、電話しない日も挟むようにしていた。
バイトの日以外は図書館での受験勉強生活が日課になり、夜21時ごろに帰宅するパターンが多くなってきた。
その日も、受験勉強を終えて家に帰りご飯を食べようとしたら。
「女の子から何度か電話あったで。電話したったほうがええんちゃう?」
オカンの言葉に凍りついた。
しまった、連絡後回しにし過ぎたのかもしれない。
いや・・・
なんで僕の家の電話を知っているんだ?
そう思うと、なんだか連絡する気になれず、疲れていたため風呂に入って眠ってしまった。
そして次の日、事件は起こった。
図書館から帰宅すると、オカンが僕に言った。
「昼過ぎから何回も無言電話かかってるで、アンタちゃうんか?」
む・・無言電話・・・、いやさすがにそれはないだろ・・・
とは思ったし、「京子、俺の家に無言電話した?」と聞けるはずもない。
ただ、今日は僕自身に京子から連絡がなかった。
次の日も、無言電話が何度かあった。
オカンは京子を疑っている。
僕はようすをみている。
-交際14日目
朝から夕方までバイトだった僕は、昼休憩を終えて自分の持ち場に戻り仕事を再開した。
僕のバイト先は遊園地の人気アトラクションで、業務内容はゲストに整列してもらったり乗り物に乗る際の補助などがある。
その日も多くのゲストが来ていて忙しく働いていた、その時。
社員の一人が僕に駆け寄ってきた。
「おい、近藤!なんかお前の名前叫んでる人がおるぞ!」
え?
「なんか、ずっとお前の名前呼んでるらしい!ちょっと行くぞ!」
え?
正直、気が動転した。
現場に向かおうとする僕に松山が「多分、美紀っすよ」と耳打ちした。
美紀?え?なんで?
もうよくわからない、とりあえず他のゲストの迷惑になっていてはならないと、持ち場を離れて社員とともに現場へと走った。
京子だった。
京子は、目に涙を浮かべながら、怒った表情で僕の名前を叫んでいた。
その横には美紀がいた。
そこからしばらくは地獄絵図だった。
社員さんにも、京子にも、なぜか美紀にも。
とにかく平謝り。
悪いのは僕だ。
京子からの連絡を避けてたし、会うのも避けていた。
僕の態度に不安を覚えて怒るのも当然だ。
むろん、京子からは波動拳100連発ほどの口撃を受けたが、僕が出来るのは謝りながら左コマンドで防御し続けることだけだった。
「本当にゴメン。バイトが終わったら、必ず電話するから。」
なんとか京子を説得し、あとできちんと話す約束をして解散した。
職場に戻った僕に襲ってきたのはまず罪悪感だった。
京子を追い込んだのは僕だ。
恐らく、そもそも僕と京子は性格が合いそうにない。
だから、これからも好きになれそうにない。
この時、初めて僕は自覚した。
もっと早く気づいて、
はっきりと早く伝えるべきだった。
そんな正しい反省を僕はしていた。
ただ、同時に考えてはいけない方向に思考が向かっていく。
確かに、連絡が途絶えがちだったとは思うよ?
でもさ、ほんの数日のことですよね?
それで、そんな怒ります?
入園料払ってまで美紀とバイト先に現れて、
人目もはばからず大声で名前を叫んで、
交際14日目でこの怒り水準って・・・
一寸先は闇っていうか、今闇やん…(´д`)
一体どういうテンションで電話をすれば良いのだろうか。
しかし、悩んでいても仕方がない。
電話するしかないのだから。
・・・
バイトが終わって帰宅したのは19:00頃だった。
「今日は無言電話なかったわ、あんたちゃんとしたんか?」
恋愛関係になると忖度なしにヅケヅケと質問してくるオカンをスルーしつつ、ご飯を食べながら京子にかける電話の台本を頭の中で整理していた。
目標は「お互いの道を歩こう~ソフトランディング~」だ。
今回の電話でボコボコに口撃されるのは仕方がない。
すべて受け止めよう。
ただ、終わりよければすべて良しだ。
待てよ?
私が直すべきところは直すからなどと言われた場合はどうする?
ううむ、その場合は・・・
などとさまざまな想定問答を整理していたその時だった。
プルルルルルル・・プルルルルル・・・
家の電話が、鳴り響いた
つづく。
#恋愛
#恋愛小説
#初恋
#告白
#クリスマス
#紹介
#マッチング
#高校生
#学生恋愛
#いつかのメリークリスマス
#恋愛小説
#エッセイ
#小説
#コミックエッセイ大賞
#クリスマスの過ごし方
#お笑い
#バカ
#ナンパ
#合コン
#女子高
#出会い
#怖い女
#ドS
#ドM
#想定問答
#剛腕
#闇