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松永K三蔵のデビュー作『カメオ』など、2024年12月「ダ・ヴィンチWeb」レビューまとめ【文芸・コミック編】
本記事では12月にダ・ヴィンチWebにて紹介された講談社作品の中から【文芸・コミック】のレビューをまとめました。
【文芸】
『カメオ』松永K三蔵
芥川賞受賞作『バリ山行』に先駆けて発表された松永K三蔵のデビュー作!『カメオ』で描かれるのは、サラリーマンの日常に押し寄せる不条理の連鎖
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■ 内容紹介 ■
本社からの命令で何としても期日までに倉庫を建てなければならないのに、犬を連れた隣地の男・カメオがたちはだかる。不条理な可笑しみに彩られた「オモロイ純文運動」の原点!
物語は亀夫が急死してしまうことで急展開を迎える。亀夫が飼っていた犬をなぜか高見が預かる羽目になるのだ。 松永さんの小説が面白いのは、こんな不条理の連鎖をとにかくユーモラスに描いてしまうこと。いかにも「笑わせよう」という気負いはないのに、自然に人というものの「可笑しみ」が伝わってきてつい笑ってしまう。
【コミック】
『盆百千栽』火事屋
アンドロイドが教えてくれる「自然」と「人工」の調和が生み出す美しさ
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■ 内容紹介 ■
盆栽とアンドロイドには共通点がある。それは人よりずっと長い時を生きるということ。アンドロイドのカンナは、盆栽屋・季風園の「先生」に盆栽を教わっていた。盆栽の素晴らしさを語る「先生」を、カンナは不思議そうに見つめていた…。長い年月が経ち、カンナだけになった季風園には、また新たな人が訪ねてくる――。これは悠久の時を生きるアンドロイドと盆栽が織りなす、全く新しいヒューマンドラマ。
盆栽といえば、どこか堅苦しくハードルが高いイメージをお持ちの方も多いことだろう。だが、『盆百千栽』を読み進めていくと、盆栽という芸術の奥深さ、そして尊さに触れるような感覚がある。
例えば、盆栽は「自然の美しさ」と、接ぎ木や針金かけといった人間の手を加えることで成り立つ「人工の美しさ」の調和によって完成するものであること。さらに、小さな鉢のなかに雄大な自然を感じる一方で、室内で鑑賞するとそこだけ時が止まっているような悠久の自然を感じる……つまり、壮大なロマンに想いを馳せる芸術なのだと。カンナのアンドロイドならではの的確な説明と、どこか切なさと懐かしさを感じる作者・火事屋先生の繊細の絵柄も相まって、これまでの先入観を払拭して盆栽の真の魅力に触れられる作品となっている。
『本好きの没落令嬢、小説家をお手伝いする。』石井 紺
読書が導く幸せ!? 実力で幸せを掴む新しいシンデレラストーリー
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■ 内容紹介 ■
身寄りがなく、ひどい親戚に預けられた主人公のエマは、ある日、小説家のお屋敷に就職することに――。
絶対入っちゃいけないと言われた仕事部屋でつい生原稿を読んでしまったエマは、あろうことか作品の穴を指摘してしまう。
広いバスルームに、ふかふかのベッド、さらにいつでも本が読み放題! 大きなお屋敷でのんびり働く住み込みメイドライフ!
虐げられた生活の中でしたが、急いで買い出しを済ませて書店に寄ることが唯一の楽しみだったエマ。そこで、人気作家・レオの身の回りの世話をするメイドを探している男性が現れて……。
(中略)
レオの屋敷に来て以降、エマは小さいことでも真剣に取り組み、周りの人を幸せにしていきます。親戚はエマの作った料理を不機嫌な顔で黙々と食べていたのに対し、「生きていてよかった…!」と感動しながら食べるレオ。この描写に、彼女のこれまで蔑ろにされていた、相手を思う心が報われた…!と、こちらも幸せな気持ちになりました。