一番と本物
関東/四年制大学文系/編集(子ども・教育)志望
「向いてないなあ」が口癖のような就職活動だった。
直前まで大学院進学を考えていた私は、心の準備もないまま無数の応募書類に追われる日々へ突入した。私にとって、好きなものについて語るのは勇気がいる。大切な人にだけ、こっそり宝箱の中身を見せるようなことだ。それを100字弱で書けと言われ、必死で書いてもメールひとつで却下され、心が悲鳴をあげた。数千、数万から人を選ぶのだから仕方ない、選ばれる努力をしよう、と頭でわかっていても苦しかった。自分の人生を就活というフォーマットに落とし込んだ瞬間、私の中のやわらかいものまでもが削ぎ落とされるようで怖かった。
相談した友人には「真面目すぎるよ」と苦笑された。読み手はこちらの好きなこと自体には興味がないのだから、書きやすいネタを選べ、という真っ当な助言。私がよほど渋い表情をしていたのか、「顔に出てる」と笑われた。向いてない。
出版社は、旅行先でも本に齧り付いて呆れられる幼少期を過ごした私の、憧れの仕事。高倍率に慄きつつも諦められず応募を決めた。
講談社のエントリーシートの設問を見て、咄嗟に「誤魔化したくない」と思った。憧れの場所を前に、自分の思い出や言葉に嘘も誇張も混ぜたくない。目立った一番はなくても、本物だけを詰め込んで提出した。
面接は毎回あっという間に終わった。面接会場を出るたびに自分の受け答えに頭を抱えたが、不思議と怖いとは思わなかった。
「一番お好きなメロンパンはどこのものですか?」
選考とは関係ありませんが、と切り出された三次面接最後の質問。特技・趣味の欄に小さく書き添えた内容まで読み込まれていることに心が震えた。
結局就活には全く向いていなかった。でも、あの時誤魔化さず、自分の言葉で自分を傷つけないで本当に良かったと思う。
内定者エッセイで散々読んだ「面接が楽しい」の意味が今は少しわかる。
本物の「大好き」を語るには勇気が必要で、だからこそとても楽しい。