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300年分の勇気

関東/四年制大学文系/国内・国際ビジネス戦略(マーケティング・プロモーション)志望


三次面接のドアの前。私は途方に暮れていた。
二次面接の最後に言われた「志望動機より趣味の話の方がずっと楽しそうだよ」という言葉が頭から離れない。
私の何をどう伝えたらいいんだろう。
なんで出版社に入りたいんだっけ。
自分の何もかもを見失って心は迷子のままで、何を話したらいいのかちっとも分からないのに、今この部屋に入らなきゃいけない。正直、すぐにでも逃げ出したかった。

頭は真っ白なままドア脇に鞄を下ろしたとき、お守りにしていたある本がふと目に入る。この本の話ならできる! と咄嗟にそれを掴み、覚悟を決めてドアノブを回した。もうどうにでもなれ。

本好きが高じて始めた江戸時代の出版研究で使う、元禄13年、1700年の和本。初めてそれを手に取った時の衝撃、本という存在の面白さを、無我夢中で語った。大昔の誰かが出版して、読み継がれて保管されて、そんなことの繰り返しの300年を耐え抜いた本が、令和の私の手の中にあるって凄くないですか。たった1冊の存在で、300年という時間とそこに生きた人々の営みを証明できるの、痺れませんか。手の中にある本に勇気を貰いながら、台本のない中で必死にそんなことを捲し立てているうちに、肩の力が抜けていく。私、ちゃんと話せるじゃん。本がずっと好きで、だから出版社に入りたい、それでいいじゃん。

講談社の人たちは、古ぼけた謎の本を持って入った私を、真剣な顔で「本って、歴史に直で触れているみたいでゾクゾクするんです」と論理の欠片もない話をする私を、決して馬鹿にせず、寧ろ興味津々に耳を傾けてくれた。気づけば素の私で話していた面接は本当に楽しくて、こんな人たちと働きたいと思えたのは、講談社の三次面接だけだった。

これを読んでいるあなたがもし迷子だったとしても、あなたの世界を彩ってきた「好き」は揺るぎなくそこにあって、講談社の人は、きっとそれを全力で受け止めてくれる。この私がそうだったように。

面接のときに必ず持ち歩いていたものたち。大学1年から書き始めたひとりごとノートは、この春で6冊目。
三次面接で持ち込んだ和本。小さいころからずっと、私のピンチの救世主はいつだって本だ。
最終面接の前後で2回行ったBUMP OF CHICKEN のライブ。面接前に必ず聞いていた『ガラスのブルース』を生で聴けて大感動。就活をずっと支えてくれていた。

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