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再び書を拾いに

中部/大手新聞社/編集(学芸・学術)志望


人生2回目の就職活動。あれ、面接ってこんなに緊張するものだっけ? 久しく忘れていた焦燥感に、思わず冷や汗が流れた。もともと文学少年で、大人になったら、当たり前に編集者を目指すものだと思っていた。しかし大学を卒業し、私は新聞記者になった。それまで小説や漫画など、物語の世界に浸りきった人生を歩んできたからこそ、社会人を前にして、思わずにはいられなかったのだ。政治、経済、社会問題……。自分はこのまま、現実の社会がどのように動いているのか、何もわからず生きていっていいのだろうか。これから一生、虚構の世界だけに向き合っていくのだろうか。そんなのは嫌だ――。

「書を捨てて、町へ出ます」。寺山修司の作品名をなぞって、周囲にはそう伝え、無事、新卒で新聞社に入社することができた。実際、記者という職業は刺激的だった。名刺一枚で、あらゆる業界のトップランナーに話を聞くことができる。自分の発想ひとつで、社会にインパクトを与える記事を書くことができる。激務で辛い経験も多かったが、充実した日々が続いた。しかし数年働き、一通りの仕事を覚え、ふと思った。世の中には面白い人がたくさんいる。新聞には書ききれない、専門家やアーティスト、活動者の深い思考や世界がある。それを世間に余すところなく伝えるには、本しかない。今こそ原点に立ち返り、編集者を目指すべきではないか。

仕事をしながらの就職活動は過酷だったが、一度決心を固めると迷いはなかった。夜遅くに疲労困憊の状態で職場から帰宅し、睡眠時間を削って、エントリーシートの記入や面接の対策をする毎日。それでも準備不足の感は否めないまま、面接に臨むことになったが、緊張の中でも、自分の強い思いだけは忘れなかった。

もちろん、私の話は一例にすぎない。人それぞれに、その人の物語があり、正解はないと思う。しかし私の物語はこうだ。

町で見聞きしたことを本にするため、再び書を拾った。

初版の復刻版が出ていたので、思わず買ってしまった寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』。
就活で辛いときは、ちいかわグッズを並べ、「なんとかなれーッ」と願っていました。

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