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Fingertip spectacle! Draw a line. 作品解説Tips 5「絵を描く時の呼吸」

ゾーンとか、フローの概念からすれば、成功体験を繰り返していけば、体はその作業の手順にかかる全身の神経、筋肉の働きを自然に、勝手に記録していると言える。

美学的に言えば、絵の具を置いてできた絵肌はマチエールといって、ただ単に綺麗に塗られていいるものではなく、ただ単に再現するために塗られているだけでなく、独自のルールを決めて、そのルールをしっかりと守りながら塗られる。塗りは成功体験を繰り返せば知らないうちに不断の運動となり、意識はゾーンに入り、画家は延々と描き続けられる世界へと没入する。画家の最高に幸福な時間であり、本来であればゾーンに入り、sophisticate(洗練)される程、高度な感覚の世界、高度な技芸の世界に至る。そこには誰にも到達できることのない高みが存在する。

高度な技芸の世界は画家の知る所である。しかし、不幸なことにアートの世界はこの技芸を見抜き、正しく評価する機能を持たない。やり方がわからないのだ。
画家の最も重要としている所が実は誰も評価できないことはFingertip spectacleで解決したい問題の1つでもある。技芸を詳細に教えることで評価の仕方も教えようと計画している。「競技としての絵画の道」を切り開こうと考えている。

独自の描き方を自分の中で上手いと評価する時は、脊髄反射的に作業する体がどれだけ期待通りの仕事をしてくれるかにかかる。境界線をはみ出さないようにする塗なら絶対にはみ出してはならないし、適切な指先の圧力によってベストな絵の具の厚みを定めているなら、絶妙な厚みでなければならない。単なる作業ではないので一筆づつ適切な呼吸がある。無駄な時間の無い呼吸であり、人として、自分としての呼吸だ。

画家には適切な呼吸が有る。言い方を変えれば呼吸は物事の認識するスピードにかかる。それは心拍数にも関わる。
犬は人よりも心拍数は早い。鳥はもっともっと早い。つまり、犬は人よりも早いスピードで物事を認識しているのだ。鳥はもっと早い。そのため寿命も違う。鳥にとって雨は人よりも何倍もゆっくり落ちて見えるのだ。

人によっても心拍数は違う。呼吸の仕方も違う。呼吸は早ければ良いと言うものではない。自分の呼吸を掴むことが大切なのだ。自分の呼吸の世界ではどのような物事が認識されるのか。慌ててしまえば認識できる物事は減る。大事な要素を1つも取りこぼさない呼吸で絵を描き続けなければ、絵は成立しないのだ。

大事な物事とは何か?今回の制作ではその全てを紹介する。紹介する内容はアートの世界が技芸を正しく評価できるようにするだろう。

Draw a lineは0.5mm程度の線を描く。線の正確な幅は最初の太さを基準とする。その太さは感覚で決める。0.5mmピッタリに合わせることには意味がない。大事なことは自分でピッタリ馴染む幅にすることだ。他人の眼を気にして0.5mm測る必要はない。媚びる必要などない。線はキャンバスのさらの白だ。そこには何も塗らない。紫外線を当てないので黄変するだろうが、線の部分には着色しない。
線は黒い色の面と面の境。つまり、黒い面を塗りながら面と面の間を0.5mm程度残して線を作る。

成功体験を繰り返し、ゾーンに入れば、細い先を塗りつぶすことはけっしてない。
この時、画家はベストな呼吸になる。

呼吸は早ければいいというものではなく、遅ければいいというものではない。


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