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【エッセイ】よる

ご飯を食べよう。と決めてから、1時間と23分が経過した。
腹は減っているが、あれが食べたい、という気持ちがない。食欲はあるが、食べたくない。米を炊くのもめんどくさい。皿が数枚、シンクに残っている。そこに手を突っ込むのも気が乗らない。
一番の理由もちゃんとわかっている。口内炎というやつが顔を出してきたのだ。今の私の中で、食べることと、それに伴う痛みというコストが、食べることによる便益に勝てない。

どうも昔から口内炎に苦しんでいる。まずは下唇にプツ、といく。ほっておくと、また、プツ、とくる。そろそろビタミンを採れる食事を意識してみる。プツ、プツ、プツ。一度出るとビタミンを意識、なんてかわいい意識ではどうにもできない。

本格的に炊事努力を諦めてインスタグラムを開くと、小顔エクササイズのリールが流れてきた。最近はやりの曲に合わせて口を大きく開閉する。つられてやってみる。あ、う、あ、う、あう、あう、パリッ。乾燥していた唇に亀裂が入った。もう嫌だ。もう何もしたくない。

ごろりと体を投げ出した目線の先にあったのは、ニンテンドースイッチだった。カセットはなんと1セットしかもっていない。ゼルダの伝説、ティアーズ・オブ・キングダム。それだって一度クリアしてからは、触れた記憶がない。飽き性がゲーム機なんて買っていいはずがなかったのだ。自暴自棄モードの私はゲーム機すら手持ち無沙汰な自分を責める。

いいよな、リンクは。口内炎なんて知らずに生きていくんだからさ。ライネルに殺されることはあるかもしれないけど、唇が乾燥して割れることもないんだから、ほんとにうらやましいよ。そして意味不明な文句を垂れる。死よりも口の小さな痛みにぶーたれる。内容は倫理的には不謹慎極まりない。

時計を見るともう夜の21時を過ぎたころだった。
もう寝よう。空腹というのは、ある程度なら眠気で押さえつけることが可能なことを私は前から知っている。
こうして、今日も無理やり夜を始める。今日を終わらせる。朝を呼び込む。




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こだち。
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