『彼女のヒント』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年7月20日(RE:7月24日)オンエア分ラジオドラマ原稿)
それは数日前のデートの別れ際だった。
「ねえ、今夜の私、何か気付かなかった?」
「え?」
「私、ヘアーをカットしたのよ」
「あああ」
「さよなら」
彼女は僕に背を向けて歩き始めた。
「あの、気付いていたよ」
僕の言葉は彼女の背中に当たって道端に落っこちた。
僕は少しエゴイストになっていたようだ。
久しぶりの外での食事。
それだけで少し特別な気持ちになっていた。
彼女の些細な変化に気付かないのは、
見た目であれ、心であれ、一緒なのだろう。
それから僕の数日前に送ったLINEのメッセージは既読になったまま止まっている。
もうすぐ彼女の誕生日だというのに。
「何か欲しいものある?」
付き合って初めての彼女の誕生日も2度目のそれも、
そういえば僕は彼女に何が欲しいかなんて聞いてこなかった。
5度目の今回、なぜ僕は彼女が何が欲しいかが分からなくなったんだろう。
「このサンダルかわいいなあ」
街でデートしていると彼女はたくさんヒントをくれた。
「なかなか欲しい形のストローハットがないのよねえ。自分で作ろうかな笑」
僕は彼女の出してくれるヒントをしっかり覚えておいて、
彼女の誕生日には正解を出すことができた。
「お誕生日おめでとう。気にいってもらえるといいな、はい」
「わー欲しかったバッグだ!なんで?」
「君と一緒にいれば行動履歴からおすすめ商品が浮かんでくるんだよ」
「うれしい!優勝しちゃった!」
去年は優勝できたが、今年は一回戦敗退かもしれない。
僕は彼女と行ったデートコースを一人で歩いてみることにした。
二人で歩いたときのことを思い出せば、
きっと彼女の欲しいものに出会うはずだ。
そういえば先日、僕らは食事を食べる前に少し歩いてベンチに座って夕陽を眺めていた。
そして彼女はこう呟いた。
「どこか行きたいね」
彼女がどこへ行きたいか、僕には分からなかった。
けれどこれまで彼女の誕生日に送ってきたもので、僕は予想をたてた。
そして彼女にLINEを送った。
「誕生日は、海の見えるホテルで一緒に過ごそう」
夕陽が沈みかけたとき、彼女からの通知オンが鳴った。
誕生日には、ストローハットを被ってサンダルを履いて、赤いバッグを持った彼女とどこかのサンセットビーチを歩きたいと思った。
おしまい
※こちらの小説は2021年7月20日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20210720210000
※こちヨロは2021年7月より土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届けします。
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