【訪問記】100年以上愛される名建築を味わう/ヴォーリズ建築ガイドツアー in 近江八幡
国の重要文化財に指定されている神戸女学院の校舎と、そのお隣の駅にある関西学院大学校舎のヴォーリズ建築。どちらも優美でステキな建物群です。
すっかりヴォーリズ建築に魅せられてしまった私は、ついに近江八幡市に点在するヴォーリズ建築ガイドツアーに参加してきちゃいました♪
(神戸女学院、関西学院の訪問記はこちら↓)
近江八幡市は、建築家・ヴォーリズさんが日本での生活の拠点としていた場所で、ヴォーリズ関連の建物の多くは、公開時期が春と秋に限定されています。
この公開にあわせてガイドツアーも実施されるので、どうせならツアーに参加したほうがずっと楽しめそう!ということでツアーを予約。
料金は1人当たり2,500円。約1.5キロメートルの行程で、5つのヴォーリズ建築を2時間ほどかけて巡ります。
(写真撮影は自由ですが、室内の写真は公開不可とのこと。)
来るその日は、ツアーの時間だけガッツリ大雨予報。だがしかし、もう予定は組んでしまった。腹を決めて近江八幡市へ!(土砂降りの雨がところどころ写り込んでますが、ご愛嬌で💦)
ウォーターハウス記念館
ツアーの始まりは、ウォーターハウス記念館から。長いレンガ塀の中央付近に位置するかわいらしい洋館です。
ここは、ヴォーリズさんとともにキリスト教伝道活動を行っていたウォーターハウス氏の家族が暮らすお家。加えて、ヴォーリズさんが興した近江兄弟社の重鎮が集まるゲストハウスでもありました。
そのため、おもてなしがしやすいつくりとなっています。
1階には応接間とダイニング、キッチンが隣接しているのですが、ドアが多く、どの部屋にもアクセスしやすいんです。
2階には寝室が3つと、それぞれの部屋からアクセスできる談話室が中央にあって、シャワールームも備えられています。昔はこの2階のシャワールームまで、ポンプでお湯をくみ上げていたとか。
そんなおもてなし要素たっぷりのこの家は、ヴォーリズ建築事務所の「住宅展示場」としての役割もあったそうです。
洋風でおしゃれなつくりなのはもちろんですが、使い勝手が良いところを体感してしまったら、注文してしまいたくなりそうだなと思いました。
公式HP: ウォーターハウス記念館 (waterhouse-kinenkan.com)
ヴォーリズの像
近江兄弟社の本社前にあります。社員さんが毎日お掃除とお花を交換しているそうで、きれいに保たれていました。
この広場は、ヴォーリズさんの出身地・レブンワースと近江八幡市が姉妹都市になったときに市が用意してくれた場所だそうです。
旧八幡郵便局
大正時代に建てられた郵便局の建物です。
郵便局としての役目を終えた後、空き家となって荒廃してしまった時代もあったようですが、市民有志の手によって再生されました。こぢんまりとした可愛らしい建築で、現在は1階にカフェが入っています。
ところで、ヴォーリズ建築の特徴の1つが「窓が多い」こと。この郵便局も、2階に天窓があっで、その光が1階にまで届くように設計されていました。
私は見落としてしまったのですが、局長室のドアノブがアメジストでできているのがおもしろポイントです。
参考:旧八幡郵便局(NPO ヴォーリズ建築保存再生運動) | (一社)近江八幡観光物産協会 (omi8.com)
アンドリュース記念館
1907年に建てられ、YMCA会館として機能した建物です。「アンドリュース」はヴォーリズさんの大学時代の友人で、早くに亡くなってしまった親友の名前から。アンドリュース家より贈られた資金を元に、ヴォーリズさんも私財を投入して建てられました。
実はここが完成した頃、ヴォーリズさんは近江八幡商業高校の教師職が任期切れとなり、無一文になってしまったそうです。
※ヴォーリズさんはYMCAから近江八幡商業高校の教師として派遣されたのですが、キリスト教の精神を広める彼の姿がまちの大人たちに懸念され、任期満了をもって失職となってしまったのです。
しかし、近江八幡を離れることはせず、ここを「神の国」とすることを目指したヴォーリズさんは、これからも生活していけるように祈るための「祈りの部屋」をアンドリュース記念館に設けます。
そのときのことを忘れないために、「祈りの部屋」は当時のままになっているそうです。
参考:アンドリュース記念館 | 滋賀県観光情報[公式観光サイト]滋賀・びわ湖のすべてがわかる! (biwako-visitors.jp)
ヴォーリズ記念館
1931年に完成した、ヴォーリズ夫妻が居住した建物です。元々はヴォーリズさんが妻である一柳満起子さんと共に運営した幼稚園ではたらく先生たちの寄宿舎だったそうです。
園児たちが訪問してくることを想定し、ドアノブが通常の建物よりも7~8センチ低く取り付けてあるそうです。
また、玄関にあるベンチも少し低めに作られていて、収納庫つきという優れっぷり。(試しに座ってみたら、思いの外低くておしりを打ちました。)
玄関ドアには網戸がついていて、珍しい内開き。来訪者を「迎え入れる」という思いが込められているそうで、「西洋縁側」とも呼ばれる作りなんだそうです。
応接間の窓の木枠は、十字架の黄金比になっていてキリスト教の精神を表しているんだとか。工夫がいっぱいです!
そんな洋室の横にヴォーリズ夫妻の居住スペースである和室を増築した、和洋折衷な内装になっていました。
ハイド記念館
メンソレータムの発明者であるハイド氏からの多額の寄付によって建てられ、ヴォーリズ学園の一部となっている建物です。
「教育会館」と呼ばれる体育館があり、よくある日本の学校の体育館という感じなんですが、そもそも日本で最初の体育館をつくったのはヴォーリズさんなんだとか(!)
簡単に歴史を紐解くと、YMCAの対象者は勤労青年たち。彼らの仕事が休みの日に雨が降っても、仕事がない夜でも身体を動かせるように、室内スポーツとしてバレーボールやバスケットボールが生まれたそうです。日本のYMCAもそれにならって体育館をつくろう!ということで、白羽の矢が当たったのがヴォーリズさんでした。
実はこの建物、先程のヴォーリズ記念館からは道を1本挟んだところにあるので、すぐ近くなんですね。幼稚園の先生としてハイド記念館で働いていたヴォーリズ夫人の満起子さんは、この建物の窓から自宅に向かって「メレル――!」(メレルはヴォーリズさんのミドルネーム)と叫んで、ヴォーリズさんを呼ぶこともあったそうです。
公式HP:ハイド記念館|施設紹介|学校法人ヴォーリズ学園 (vories.ac.jp)
全体的な感想
ツアーでは他にも興味深いお話しをたくさん聞くことができ、大雨も苦にならないような充実した時間を過ごせました。
ガイドさんのお話で心に残ったことを少し。よくヴォーリズさんの言葉として、
「建物の風格は人間の人格と同じく、その外見よりもむしろ内容にある」
というものが引かれるそうです。
建築物は何かしらの「目的」があって作られるものであり、建築物はその目的を叶えるための「手段」。建築物が完成した時点とは、「おわり」ではなく「はじまり」。つまり、そこから施主さんや利用者さんの手でその建物の歴史が紡がれていくのです。
とすれば、ヴォーリズ建築が今なお愛されるのは、建築物の素晴らしさもあるかもしれないけれど、利用者さんたちがそこで過ごした歴史が堆積しているからこそでもあり、ヴォーリズさんはよき利用者さんに恵まれた人とも言える、とのお話でした。
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与えられた場所で、種を蒔く。ヴォーリズさんのその奮闘が100年以上の時を経て、花開き咲き続けている様子を感じられたのがよかったです。
ツアーの参加者は、母校がヴォーリズ建築だった方も数名いらっしゃって、その事実からもヴォーリズさんがつくったのは、人々の思い出や良い記憶となるあたたかな場所だったのだと思いました。
建築ではないにしても、なにか人のためになるようなものを私も遺せたらいいなぁ…!
おまけ 十人十家Cafe&Bar(旧パーミリー邸)
ヴォーリズ建築を改装したカフェが近くにあつたのて、この日の〆に訪問してきました。
店内に飾られていた昔の写真と見比べると、かなり改修の手が入っていることがわかりますが、白アリ被害などかなり老朽化していたそうなので、むしろよくぞ復活させてくれました!というところなんだと思います。
現代に生きる(ただ建物として存在しているのではなく、人が利用できるものとしての)姿を感じられて面白かったです。
◆ヴォーリズ建築ツアー((一社)近江八幡観光物産協会)
ヴォーリズ建築(ツアー・特別公開)について | (一社)近江八幡観光物産協会 (omi8.com)
※ツアーは2024年11月24日(日)まで開催。要予約。
◆十人十家Cafe&Bar HP
十人十家Cafe&Bar・ArtLab【ヴォーリズ建築】 (ryotanaka.com)
※本記事はツアーで教えていただいた内容と、ツアーでいただいた資料をもとに執筆しております。当方の思い違い等なにか問題がございましたらお知らせください。