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西アジアのいきもの:2 /古代オリエント博物館

承前

 展示作品には、動物のモチーフを一部に取り入れたものと、全体を動物のかたちに似せたものとがある。
 後者には《土製羊》(シリア  前2000年紀前半  横浜ユーラシア文化館)のようなフィギュア的な作例から、中にものが入れられるなど、他に機能を兼ね備えた作例までが含まれる。
 たとえば、リーフレットの右側で、ひときわ存在感を放つ《鹿形土器》(イラン北部  前1200~前800年  個人蔵)。長く伸びた下あごから、胴部に入れた液体を注ぎ出すことができる。

 それにしても、この愕然としたような表情。「ガーン!」という効果音をつけたくなる。
 ポンキッキのムックみたいなぽっかり開いた口、シカというよりお盆の茄子の牛に似た胴体、棒状の短い脚……愛嬌があって、とてもよいではないか。

 首の後ろにボコっと大きなコブをもつ「コブウシ」も、こういった注口土器のモチーフとなった。家畜として、農耕に運搬にと大車輪の働きをするコブウシは、暮らしの豊かさの象徴だったのだろう。

 《コブウシ形土器》(イラン北部  前1000年前後  古代オリエント博物館)。メリハリのきいた思いきりのよいデフォルメぶり、つややか・なめらかな質感に目をみはる。

 (なんだか、ブラウン管テレビの後ろ側みたいな形状だ……)

 このコブウシも、シカも、聖なる酒を注ぐためのうつわ。
 いわば、既存の動物のかたちに対してうつわの機能が付与された造形といえるが、同じ機能をもつ、動物とうつわが等価で合体したような作例もみられた。
 動物の前半身と、ラッパ状に開いたコップをくっつけたうつわ——いわゆる「リュトン」である。
 《野生山羊装飾杯》(ペルシア  前8~前6世紀  MIHO MUSEUM)は、なかでもとくに “美作(びさく)” というにふさわしいもの。細緻な文様を、密に配置。ヤギの顔つきはきりりと、雄々しく凛々しい。
 リュトンの動物たちの表情は往々にしてそうで、なかには、狩猟の真っ最中を造形化した、荒ぶるものすらある。
 たいへんな威厳と風格を感じさせるのだが……にもかかわらず、身体は半身のみで切れていて、穴にハマったまま出られないでいるような、ある種のお間抜け感が漂う点も、リュトンを楽しいと思う理由である。

山羊形リュトン
  イラン  前1000年紀前半
  東京国立博物館

 リュトンの形状は、獣の湾曲した角(つの)でつくった「角杯」を模しているが、杯とは違って、直接口をつけて飲むものではない。先端に穴が穿たれており、シカやコブウシの土器と同様に、あくまで「注ぐ」うつわとなっている。お猪口ではなくして、お銚子である。
 どの形状にしても、液体が出てくるのは動物の口からというのがやはり自然と思われるけれど、展示作品には胸や、前脚の先から出てくるものも。「そっから出るんかい!」とツッコミを入れたくなった。
 酒を入れてじっさいに注いでみたら、動物たちはどんな表情をみせるだろう。注ぎ口のキレは? 酒の香りや味わいは?
 ……使ってこそ見えてくる姿というのはきっとあるはずで、好奇心をかきたてられる。

 ——コブウシも、シカも、リュトンも、3Dプリンタによりカプセルトイ化されていた。
 調子に乗ってガチャガチャを4度も回し、計4種類を入手。どれも、手のひらサイズでたいへんかわいらしい。

 さすがに中の空洞までは再現しきれず、液体を入れたり、注いだりといった検証はできないけれど、いいおみやげができた。


 ご紹介してきたもの以外にも、魅力的な造形物がわんさかあった本展。
 ふだんは馴染みの薄い分野で、若者の街・池袋というさらに馴染みが薄い立地ゆえに久々の訪問となってしまったが、非常に楽しめた。今後も注視していきたい。


猫ちぐらに参籠する、東アジアのいきもの・猫のさとる
猫ちぐらから這い出る
リュトン感がある。さとリュトン



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