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大倉集古館の春 ~新春を寿ぎ、春を待つ~:1 /大倉集古館
春にまつわる名品・珍品を集めた、館蔵品による展覧会である。
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会期は、新年気分もすっかり抜けた1月末から、梅がさかりの今ごろを経て、桜の開花には若干早めの3月末まで。「新春を寿ぎ、春を待つ」というテーマ設定によって、前後の季節をいいとこどりしている。
まずは新年を祝して、末広がりの「扇」にちなんだあれこれ。
宗達工房の《扇面流図屏風》は、波間にとりどりの扇が浮かんでは流れていくさまを、扇面画の貼り付けで表している。色紙に関しては、後から貼り加えられたものらしい。
「ザッパーン!」と効果音のひとつもつけたくなるような勢いの片男波(かたおなみ)に、金地の扇が規則性なく散りばめられて、非常にドラマティックな画面となっている。
それぞれの扇面に目を遣ると、描写はきわめて簡素。扇面は個別に鑑賞するものというよりは、屏風全体を構成する一要素として捉えるべきかなと感じた。
この屏風が大倉家の所蔵に帰したとき、1隻のみの状態だったという。そのことを知ったもう片方の所蔵者が「古物の離散はもっとも風流の恨事」との思いから大倉家に快く譲り、右隻と左隻がめでたく再会を果たした。
会場では以上のような伝来の経緯を記した華麗な掛軸《古屏風奇遇乃記》を展示。このような洒落た付属物がこしらえられた点を含めて、まことに快事・美談といえ、作品を観る目も少しだけ変わるのであった。
扇にちなむものとして、他に中国・清代の扇面画、鎌倉期の《長生殿蒔絵手箱》(重文)が出ていた。
続いて、大倉喜八郎蒐集の中国美術から、今年の干支・龍をモチーフとした作が登場。
喜八郎は、生涯で9度も足を運んだほどの中国通。中国美術にも膨大な蒐集品があったが、多くは関東大震災により焼失・損壊を被っている。
展示作のなかにも、身が3つに割れた後漢時代(2~3世紀)の硯《蟠龍石硯》や、ひしゃげてしまった春秋戦国時代(前5世紀)の鏡《虺龍透文鏡》があった。
喜八郎は中国の伝統芸能・京劇を日本に紹介したキーマンでもあるとのことで、国内では珍しい京劇の衣装が特集されていた。きらびやか、吉祥のモチーフに満ちており、新春にはぴったり。
同じく、おめでたいことこの上ない意匠の《青磁染付宝尽文大皿》は、鍋島の皿の規格としては最大の「尺皿」。直径が1尺=30センチの大皿だ。
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青磁釉の溜まりや、むらむらとした景色が美しい。青海波文の緻密さ・破綻のなさ、宝尽文の濃淡といった点に象徴される染付のすぐれた技巧も、たいそうなものだ。
いっぽうで、青磁釉を掛け分けた際(きわ)のあたりがややアバウトになっており、ところどころから赤褐色の素地が覗いていた。
鍋島のうつわは完璧主義というイメージがあるけれど、このような仕上がりでも厳しい検品を通り抜けられたのだという事実が少々意外で、興味深かった。
とはいえ、少ない色数によって、深みのある完結された世界を描きだすことに成功しているのはさすが鍋島。
おめでたいと浮かれるよりも、身が引き締まる思いをさせてくれるような、魅力ある一品となっている。(つづく)
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