江戸の陶磁器 古伊万里展:1 /松岡美術館
白金台の松岡美術館。今回の企画は「モネ、ルノワール 印象派の光」と「江戸の陶磁器 古伊万里展」の2本立てである。
こちらが、本展のリーフレット。
ルノワール《リュシアン・ドーデの肖像》が大きくあしらわれた、印象派一色のデザインとなっている。裏面が古伊万里一色の、リバーシブル仕様というわけでもない。
古伊万里展は【同時開催】扱いで、哀しいかな、かろうじて1行……どこに挟み込まれているか、探すほうがたいへんなくらいだ。
大いに集客が望める印象派絵画をプッシュするのは、美術館の経営上、正しい。最善の選択といえよう。
古伊万里というか、やきもの全般は、世間的にいえばマニアックな部類に属する。こうして、印象派という大スターの添え物としてもらえるだけありがたいのだ……
そう卑屈にならずとも、愛らしい少年・ドーデ君に導かれて来館し “不意打ち” を喰らった方々が、やきものに開眼する可能性だってあるかもしれない。素晴らしいではないか。
このように、割にすんなりとあきらめがつくのは、松岡美術館にはたいへんすぐれた、かつ魅力が伝わりやすい鑑賞陶磁が目白押しだからである。
生活のなかや茶事の場で使う道具よりも、バーン!とデカくてドーン!と迫ってくるようなド派手な鑑賞陶磁が、松岡コレクション最大の得意分野。
中国の王宮を飾った明清の陶磁器が、なんといってもコレクションの中心。その陰に隠れがちではあるが、日本陶磁にも、同種の傾向のいいものがある。それらのほとんどが、本展の古伊万里なのである。
バーン!ドーン!の古伊万里といえば、ヨーロッパへ輸出され、王侯貴族の城館に飾られた柿右衛門や金襴手。前半はこれらのうつわが並ぶ。
海外のマーケットで松岡氏が買い戻してきた里帰り品が多く、壁にディスプレイするための取り付け具が残る大皿などもあった。
そして……松岡コレクションの古伊万里で最も充実した内容を誇るのが、後半をほぼ占める古九谷の大皿15点。こちらは国内向けだが、バーン!ドーン!では輸出品に引けをとらない。
シャッター音を出さなければ撮影可となっていたので、ここからは画像を使ってご紹介したい。
《色絵芭蕉柳図輪花鉢》。
古伊万里のうつわが並ぶこの部屋で、いちばんの名品だと思う。写真ではサイズ感が伝わりづらいけれど、口径は45.0センチもある。
記号の{ の形状に縁(ふち)を整えた稜花(りょうか)形の成型が、古九谷としてはめずらしい。大きさはじゅうぶんすぎるほどあり、絵付は雄渾そのもの、釉の上がりは最高……と、非の打ち所がない青手(あおで)の名作だ。
破綻なき文様の精緻さ、色絵の発色のよさはもちろんのこと、釉のムラが味わい深い。見込の亀甲文にかかる黄釉の変化に富む効果は、狙ってできるものではないだろう。
芭蕉や柳、巌の描写に顕著な、青手古九谷に特有の雄渾な絵付は、しばしばあのゴッホの油彩画になぞらえられる。
関連性はむろん、ない。
だが、そう形容したくなるのもうなずけるくらいには濃密で、パッションを感じる描きぶりである。(つづく)
※前回、松岡美術館を訪ねたときのレポート
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