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[館蔵]秋の優品展 桃山の華:1 /五島美術館

 今年の「秋の優品展」は、ずばり「桃山」。

 国内屈指の私立美術館・五島美術館のコレクションは茶道具に特化していて、その枠から外れるものは近代日本画、中国の鑑賞陶器、考古遺物、愛染明王坐像など、そう多くはない。茶席に出番のない書跡や文書、古典籍などの紙ものは「大東急記念文庫」という別名義での管理になっている。
 例年、春秋の「優品展」では五島美術館と大東急記念文庫の収蔵品から展示が組まれているが、今回はとりわけ「総力戦」の様相が強いラインナップと感じた。

 通観してまず思ったのは、いわゆる「桃山絵画」がないということ。
 ちょうど1年前に開催されていた東京国立博物館「桃山 天下人の100年」のポスターを飾ったのが永徳の唐獅子と舟木本であったように、桃山美術の花形は金碧障壁画。大画面の狩野派や長谷川派、都市風俗画の類が、そういえば五島には所蔵されていないのだ。南蛮美術もない。
 五島が強い「桃山」はなんといっても「桃山茶陶」で、他の追随を許さないほど。加えて、唐物から利休関連まで、戦国武将ゆかりの茶道具も豊富にある。これらをフル活用しつつ、大東急記念文庫所蔵の武将の書状などを組み合わせれば、屋台骨としてはおおむね完成。
 さらに今回は、絵画の穴を埋めるようにして光悦の作品が多数登場していた。
 桃山の展示として光悦は「ぎりぎりセーフ」の範疇だが、光悦こそメインではというほど展示室で多くのウェートを占めていた。続いて光琳・乾山があり、17世紀も後半の御伽草子絵巻まで出てくると、もはや桃山展といってよいのか考えこんでしまうが……優品を拝見できるのだからよいではないか。

 むしろ、そのような涙ぐましい工夫の一環として、《秋草蒔絵文箱》のような作例に積極的にスポットライトが当たったのは喜ばしい。
 《秋草蒔絵文箱》は、閉じた扇子の一本でも入ればよいほどのサイズ感。今回のメインビジュアルでは中央にどんと据えられ、展示室でも入ってすぐの行燈ケースに《破袋》と並んで展示されていた。小ぶり・細身ながら弛緩したところはなく、精作というべきもの。
 この文箱は、寸法がぴったりだったためか、平安時代の古写経1本を入れる箱として伝来した。どの段階でそういった取り合わせになったのか、おそらくそう古い話ではないのだろうが、影に隠れがちなこういった麗しい小品が日の目を見るのはよいことだ。(つづく



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