![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/130240481/rectangle_large_type_2_603ec190d886ac189a0d86b4fb929988.jpeg?width=1200)
初期鍋島と花鳥図屏風:2 /東京黎明アートルーム
(承前)
展覧会名として表に出ているのは「初期鍋島と花鳥図屏風」だけだが、本展を観に来ると、その他にも、じつにさまざまな分野の作品に触れることができる。
なかでも充実していたのが茶陶だった。
展示の冒頭には初期鍋島が並んでいるかと思いきや、茶陶。これでまず驚き、茶陶が展示室の半分を占めていたことで二度驚き、そしてすぐれた作品たちに三度、四度ほど驚いた。
/
— 東京黎明アートルーム (@torek_museum) February 1, 2024
「初期鍋島と花鳥図屏風」展
🌀現在開催中🌀
\
現在展示している陶磁器の中心は、1650年代に作られた初期鍋島焼(松ヶ谷手)ですが、本器(志野茶碗)のような茶陶(茶道用陶器)の展示もあります🍵 pic.twitter.com/ivXX2Jg9QH
上の志野茶碗と一緒に並んでいた《志野花畳文鉢》。
まずもってデカいし、深い。そのうえ、釉のあがりがたいへんよく、雪のように白い。当日は午後から大雪の予報が出ており、外のようすが思いやられた(不要不急を承知で、こうして美術館にやってきたのだ)。
隣の古唐津《銹絵渦文茶碗》。これもデカくて深い。
側面に描かれた渦巻のかたちがおもしろい。三重の半円を左右に並べて、ひとつの渦が表されている。左右の半円は接しておらず、中央に細い道ができている。このような渦が5、6個ほど配されているのだ。
どうして、このような文様にしたのだろう? 古唐津にはときおり、そう思わせる文様があって楽しい。
本作の渦文にいちばん似ているのは……玉ねぎを4等分したときの、2つ分の断面。陶工は案外、そういった卑近なところから着想を得たのかもしれないけれど、確かめようはない。
会場では、プロジェクターでイメージ映像が投影されていた。うれしいのは、そのなかで、出品の茶道具を使って茶を点てている場面が観られること。
《銹絵渦文茶碗》に関してはキャプションの作品名をよく見ずに、そのデカさ・深さから、料理を盛り付ける「鉢」だと思いこんでいたのだが、映像では茶碗として使用。改めてキャプションをみると「茶碗」と書いてあるではないか。いや、それにしてもデカすぎでは……
同じく映像内でお点前に使われていた仁清《灰釉刷毛目天目》。高台には「三玄」との墨書がある。
大徳寺の塔頭・三玄院に伝来した数茶碗から分かれたもので、ときおり美術館や市場でツレをみかける。数茶碗とは、大口の注文を受けて、同じ手の茶碗をまとまった数挽きあげたものをいう。つまり、同種の作例が複数個存在する。ここでは比較対象として、金沢美術工芸大学所蔵の近い手の作をご紹介したい。
長石の多い粗めの土で挽かれた天目形。本歌・中国の天目よりも重心は低く、口は広めで、いかにも点てやすそうである。
金沢のものと東京黎明アートルーム所蔵の本作とで異なる点としては、(1)黎明の作には側面に猫掻手(ねこかきで)にも似たラフで細かな三島があること、(2)金沢の作では控えめな口縁内側の灰釉が、黎明の作では口縁をほぼ一周するほど広範に施され、かつ緑も濃く出ていたこと、(3)黎明の作の見込には力強い刷毛目が独楽状にめぐらされ、渦の中心(茶溜まり)に至ると刷毛目の筆は勢いよくはねて、渦を裂くように縦断する……といったあたりが挙げられる。
とくに(3)の景色が素晴らしい。このような刷毛目の跡をみれば、茶筅をふるう手の動きは否応なしに加速することだろう。こんな茶碗で、茶を喫してみたい。
仁清の作品はこの天目と茶入、さらに水指もあった。
この水指がなかなかの曲者。信楽の土を使った焼締めで、麦わら帽子をひっくり返したような形状である。赤褐色に発色するさまもまた麦わら帽子そっくりで、仁清は麦わら帽子を知っていたのか?とすら思ってしまう。
余談だが、カウボーイがかぶっている「テンガロンハット」の名前の由来は、「水が10ガロンも入る」くらい大きいこと(1ガロン=およそ4リットル)。
仁清の麦わら帽子みたいな水指を観て、この逸話を思い出し、ひとりでくすっとしてしまった。
みなさんにはいま、ひっくり返した麦わら帽子を思い浮かべていただいているが、このうつわ、それだけではない。縁の内側から見込みにかけて、楓が2葉、鉄釉で大きく、伸びやかな筆線で描かれている。
この発想力、いったいなんなのだろうか……このような作を観ていると、仁清こそ「奇想」の人ではと思えるのだ。
のちの京焼の陶工たちが、あまりに単純にこの作家の模倣に走ってしまったがために、仁清はかえって凡庸な作家との誤解を受けている部分もあるけれど、やっぱり本家本元はすごい。いやはや、たいへんな作家だと思う。
行灯ケースには、古伊賀の水指。
こちらも野趣あふれる非常によいもので、先日の五島美術館「古伊賀」展に並んでいてもおかしくない逸品だった。
——茶陶の部屋のもう半分が、本展の主役・初期鍋島のコーナーであった。
奥の部屋には石仏と室町の狩野派による《花鳥図屏風》、上の階には岡田茂吉と古代の造形、地階には雪村、英一蝶、伊藤若冲、住吉具慶の絵といったラインナップ。
いろいろとつまみ食いできて、たいへん満足であった。
大雪警報のさなかとあって、この日はハシゴを断念。家路を急いだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1707396126304-x474FXrjNR.jpg?width=1200)