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顕神の夢 ー幻視の表現者ー:3 /川崎市岡本太郎美術館
(承前)
橋本平八は、1本の角材から石の姿形を彫りだした。
木で石を写したものではあるのだが、「木という素材のなかにある霊性を、彫刻によって彫り起こした」と言い換えることもできよう。
この在り方は、円空仏に似ている。
橋本平八は、円空の再評価に寄与した人物でもある。
1973年生まれの三宅一樹さんは、円空や橋本平八から影響を受けた作品を発表している。
下記リンクの公式ページにある「神像彫刻」のシリーズにその跡が顕著であるが、このうち《スサノオ》(2011年 作家蔵)が本展の出品作。
倒壊した御神木の樫の木を譲り受けた三宅さんは、あるときそこに「カミの顔」を見出し、夢中になってひと晩で彫りあげたのだという。完成後、《スサノオ》と名づけられた。
木に宿った荒ぶる魂を、人間の視覚で捉えられる状態にまで彫り起こす姿には、円空が重なる。
木には、魂がたしかに宿っている……そのように感じさせる作品が、もうひとつあった。
村山槐多《欅》(1917年 東京都現代美術館)。
公園に生えた、欅の木。
ここに描かれているものはまったく、そうでしかない——はずなのだが、絵全体が、なんとエネルギーに満ち満ちていることだろう。強い筆圧で繰り返された確信的な線が、迫り来る。
単なる「木」以上の存在感がある。画家の衝動や情熱、それを駆り立てる、欅の木がもつ生命力が、そういった存在感を形づくっているのだろう。
公園の欅の木に、はちきれんばかりのパワーのほとばしりを感じ取った画家は、導かれるようにスケッチブックに向かったのではなかろうか。
前のめりの身体を揺らしながら、ザザザッと手を動かしていく……そんな画家の後ろ姿が、絵の手前にまざまざと浮かび上がってくるところに、わたしは魅かれた。
先ほどの三宅さんの出品作には、《root1(上九沢八坂神社御神欅)》という木炭デッサンも。
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Posted by 川崎市岡本太郎美術館 on Friday, June 9, 2023
こちらもやはり、ただの「木」以上の存在感である。
槐多の《欅》と同じく大樹を描いた木炭デッサンということで、ぱっと見の類似性こそあるものの、表現姿勢はずいぶんと異なると思う。
槐多は「前へ前へ」という、ギラギラした表現。三宅さんは「奥へ奥へ」、秘されたものの存在を外形から描きだし、いざなっている。(つづく)
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※三宅一樹さんの、自作を前にしたギャラリートーク。