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大蒔絵展 漆と金の千年物語:4 /三井記念美術館
(承前)
蒔絵の主要な技法が出そろった室町時代。続く桃山時代には、高台寺蒔絵や南蛮漆器が生み出された。
《秋草蒔絵歌書箪笥》(高台寺 重文)をはじめとする高台寺蒔絵の代名詞といえば、秋草。
この秋草の線に関しては、のびやかで優美なものとの印象をずっともっていたのだが、解説を読んで、受け止め方が少し変わった。
この作風が生まれた背景として、漆工の需要が増大し、量産の必要性が出たことがあるという。たしかに、室町期の複雑な技巧が凝らされたものと比べると、高台寺蒔絵の技法はいたってシンプル。厚みも真っ平らだ。
手数が減らされ、簡略化がはかられている。デザインとしても描きやすく、かつ明快でさまになりやすく、よく目立つ。
こなれた手の動きが生み出すスピーディーさや大胆さが、高台寺蒔絵の身上といえるのかもしれない。
この高台寺蒔絵や南蛮漆器、江戸に入っては琳派の蒔絵などといった個性的な作品に目がいってしまいがちだけども、中世の伝統を受け継いだ正統派の蒔絵は、近世に入ってもずっとつくられつづけていた。
五十嵐派の最高の技術が注がれた嫁入り道具のフルセット《初音の調度》(国宝 徳川美術館)は、質といいスケールといい、その最高峰というにふさわしい。
しかし、この手のもので今回あえてご紹介したいのは、塩見政誠《比良山蒔絵硯箱》(東京国立博物館 重文)である。
近江八景のひとつ「比良暮雪(ひらぼせつ)」を遠景に、湖面を往く小舟と砂浜が描かれた硯箱だ。
琵琶湖の広大さ、さざ波の立つ穏やかなようすが伝わってくる。
すべてが金を用いて表されているからだろうか、幻想的な光景とも映る……夢幻の世界へといざなう、魅惑の硯箱である。
だいすきな琳派の作は、書画を含めて多数出ていた。
なかでもひとつだけ選ぶとすれば、酒井抱一が下絵を描いた原羊遊斎作 の《四季草花螺鈿蒔絵茶箱》(個人蔵)だろうか。何度か観てはいるが、目に入ってきた瞬間にやはり、どきりとしてしまった。
この画面分割・切り替え、色の選択、モチーフの配置。なんと鋭敏な造形感覚。キレッキレの、センスの塊ではないか!
![](https://assets.st-note.com/img/1668436734139-R4A1J0Tlw2.jpg?width=1200)
茶箱だという点も、ポイントが高い。この中に小ぶりの茶道具を仕込んで、春の野へ、夏の山へ、紅葉狩りへ、雪見へ、おでかけするのである……なんともぜいたく。
鎌倉時代の《梨子地秋の野蒔絵手箱》に関して、
本展で観たなかでは、一二を争うくらいに「欲しい!」と思わせる
と前回綴ったわけであるが、「一二を争う」というのが、この茶箱のことであった。やっぱり、これも欲しい!
展示は幕末明治を経て、近代の個人作家、人間国宝へと移る。おおむね、作家1名につき1点ずつの駆け足の紹介となっていた。柴田是真などは、別格扱いでコーナーをつくってもよかったかもしれない。
——ともかくも、これにて「漆と金の千年物語」は閉幕。
見応え十分、十二分。
ふだんの展示では、とかく脇役となりがちな漆工の分野ではあるけれど、こうしてどっぷりと浸かることで、魅力を再認識できた。
この秋は、漆の展示が多め。永青文庫の漆展にも、行ってみようかな……