椿、咲く。:1 /UNPEL GALLERY
『椿絵名品展』というやや古めの展覧会図録がある。たしか1980年代の刊で、尾形光琳・乾山、横山大観、小倉遊亀、岸田劉生、北大路魯山人らの作品が載っていた。
画題はすべて「椿」。何度ページをめくっても椿、椿。
おもしろいのは、これらの椿の絵が展覧会のテーマに沿ってさまざまな所蔵先から集められたわけではなく、全点が同じ大東京火災海上保険の所蔵であったというところ。
大東京火災海上保険はその後合併し、あいおいニッセイ同和損害保険と改称。椿絵のコレクションも引き継がれ、ときおり各地の美術館に貸し出されていたことまでは把握していた。それがこのたび初めて常設のギャラリースペースを開設したと聞いたので、さっそく足を運んでみた。
オープンは昨年12月16日、こけら落とし展の名称は「椿、咲く」。まさしく椿の花咲く時節を選んでの開館であり、もうこの時点で好感がもてる。
椿は同社の社花で、カレンダーは毎年このコレクションから選んでつくっているらしい。前期ではカレンダーのもととなった絵画を中心に展示。今回訪れた後期は、琳派を中心に構成された椿絵の展示ということであった。
場所は日本橋。高島屋から東京駅の八重洲口に抜ける並木道にガラス張りの新しいビルがあり、その1階に「UNPEL GALLERY」が入っていた。開館したてらしく、各所から贈られた華やかな胡蝶蘭たちがエントランスで出迎えてくれた(ここは椿ではなく胡蝶蘭)。
スペースはワンフロアで、展示作品は18点。けっして多くないが、粒ぞろいでじっくり観る価値はあった。
展示順に羅列すると以下のようになる。
竹久夢二、満谷国四郎、村上華岳、岸田劉生、梅原龍三郎、尾形乾山、(伝)狩野山楽、尾形光琳、酒井抱一、小茂田青樹、小倉遊亀、林功、鈴木其一、前田青邨、小林古径
江戸時代の琳派と、琳派に影響を受けた、ないし琳派に親和性のある近代の作家の椿絵がずらり(伝山楽の屏風はおまけ)。複数出ているのは、光琳が軸1点、蒔絵1点、乾山が軸1点、銹絵(さびえ)の角皿1点と緑釉を花弁状に抜いた向付5客1組。
メインビジュアルにも使われている光琳蒔絵の硯箱は光悦《舟橋蒔絵硯箱》と同種の形状で、蓋の中央部がこんもり膨らんでいる。土坡による大胆な画面分割は宗達《蔦の細道図屏風》を思わせるし、身に螺鈿で大きくあしらわれた早蕨も宗達のそれだ。曲線が美しく、いやらしさのない光琳蒔絵であった。(つづく)
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