日本と東洋のやきもの:4 /京都国立博物館
(承前)
小さな展示室の、そのまた半分のスペースを占めていた京焼に関して、2回分を費やしてしまった。
残り半分は中国陶磁、朝鮮陶磁、日本の古代・中世陶器に分けられる。通史的とはいかないが、いずれ劣らぬ少数精鋭。主要なものを、これまた駆け足でご紹介したい。
本展のメインビジュアルに起用されていたのが中国・唐時代の《加彩婦女俑》。わたしの初恋の人……というわけではないものの、長いことお慕い申し上げているお像だ。
狆(ちん=犬)を抱きかかえた、ふくよかな唐風の美人像である。「加彩」とは素焼きのボディにじかに彩色を加えたもので、焼き付けをしていないから、彩色部分はぺりっとたやすく剥がれてしまう。本像の彩色もほとんど剥落しているが、古拙・枯淡の風を感じさせて、かえって好もしい。
中国の陶俑は、身体描写こそおおづかみで簡略化されていながら、顔つきや指先など細部においては迫真性が追求されている。そういった特徴は《伝源頼朝像》のような中世日本の似絵(にせえ)に通じるところがなくもないが、本作にも、あるいは特定のモデルがいたのかもしれないなどと想像を働かせてしまうほどに、人物の内面を映すかのような造形となっている。
もっとも、「唐風の美人」としては、むしろ典型的な姿・顔つきではある。
よく似た類品が大阪市立東洋陶磁美術館の安宅コレクションにあって、こちらもたいへんすばらしい。
彼女は常設展示の会場にいつもいて、360度どの角度からも観られるようになっている。定位置が行燈ケースだから……というわけではなく、ゆっくりと自動回転するターンテーブルに乗せられているからだ。
京博の彼女も、できればターンテーブルに乗った状態で観てみたかった。そうしたら後ろ姿や、狆の顔などももっとよく見えただろう。
欲をいえばきりがない。こうして出会えただけでもよし、である。
陶俑としては唐三彩のものも、点数は少ないながら名品が並んでいた。
定番の馬(《三彩馬俑》)や女性の俑もよかったけれど、本日のチョイスは《褐釉男子立俑》。
釉薬を勢いよくビシャーッと掛けられ、窯のなかでチョコレート色を得たことで、この男は美しい服をまとうことができたのであった。たっぷり掛かった褐釉と、その目の醒めるような上々の上がりに、ほれぼれしてしまう。
身体の造形はやはり簡略化されており、ぎこちなくて鈍重ではあるが、顔をみるといたってまじめそうで、なんだか憎めない奴である。
おでこにまで釉がはねてしまっている。この額のしぶきのせいで、おまぬけな三枚目にもみえてくる。顔つきはいいのにねぇ……。
彼を観ながら、ごく自然に浮かんできたニックネームは “釉もしたたるいい男”。我ながらなかなか巧くできたと思うが、どうだろうか。
(つづく)
※大阪では、《加彩婦女俑》をテーマとしたこんな展示も開催されていた。ちょうど1年前。会期中に大阪にいたこともあるのに……行けばよかった