
復刻 開館記念展 仙厓・古唐津・中国陶磁・オリエント /出光美術館
今年の4月23日から5月19日まで、東京・丸の内の出光美術館で開催されていた展覧会である。
同館は、入居する帝劇ビルの建て替えにともない、2025年1月より長期の休館に入る。再開館の時期は、現時点で未定。
現体制のフィナーレを飾るべく、同館の歩んできた道のりを、代表的な館蔵品とともに4部に分けてみていくシリーズ企画「出光美術館の軌跡 ここから、さきへ」。その第1弾である本展では、昭和41年(1966)に催された開館記念展の「復刻」を試みる。
ビルのワンフロアにテナントとして入居する都市型の私立美術館は、その性質上、移転を余儀なくされるケースが多い。サントリー美術館、山種美術館、アーティゾン美術館(旧・ブリヂストン美術館)なども、複数回の移転を経ていまの場所に落ち着いている。
出光美術館は老舗でありながら、昭和41年から一度も移転せず、ここ帝劇ビル9階でずっと活動してきた。展示室の構成や間取りも、大きくは変わっていないという。それゆえ、精度の高い「復刻」が可能というわけだ。
展覧会名にもあるように、開館記念展のラインナップは「仙厓・古唐津・中国陶磁・オリエント」。かなりシブい展示内容といえよう。
各分野で名品が並ぶが、「仙厓・古唐津・中国陶磁・オリエント」それぞれに強固な関連性を見出すのはむずかしい。いま、この展示内容を提案したとしても、なかなか通らないだろう。
つまり、本展に関しては、「復刻した」という点こそがキーとなっている。当時とほぼ同じように、当時とほぼ同じものを置くのである。
いっぽうで「ほぼ」という点もまた注目ポイント。
たとえば、開館当時の会場写真に写っている明かり障子(もしくは、明かり障子に似せた間仕切り)は、現在失われている。本展の会場では、それを模した垂れ幕状の間仕切りが設けられるなど、当時の雰囲気に近づけようとする工夫を感じさせた。
また、展示室の構成も少しだけ違っている。当時の間取りをみると、最初の展示室にある一段低いスペースのあたりに茶室があったり、陶片室が展示室と直接つながっていたり。
順路は現在とは逆側、つまり皇居側の展示室からはじまっており、振られた番号もそちらが「展示室1」となっている。
作品の鑑賞はもちろんのこと、こういった点に注意をしながら展示室を歩くのは新感覚で、楽しかった。
※特設サイト「館内の軌跡」に詳しい。
出光佐三は、出光興産の社内や出光美術館の館内ではいまも「店主」と呼ばれ、敬愛される存在という。出光美術館ではこれまでも、「出光佐三」というひとりの企業人・美術コレクターに焦点を当てた展覧会を節目ごとに開催してきた。
今回の展示で特徴的と思われたのは、「出光佐三」個人に対して、さほど強いスポットライトを当てていないという点であった。あくまで「出光美術館」を回顧しようという姿勢がうかがえたのである。
ただし、個人が蒐めたコレクションゆえ、佐三その人の出自や足跡、嗜好を偲ばせる点は、やはり随所にみられた。
佐三は福岡・宗像大社のお膝元に生まれた九州男児。博多ゆかりの仙厓さん、同じ九州産の古唐津を深く愛した。佐三19歳時に入手、記念すべきコレクション第1号となった《指月布袋画賛》、館を代表する《絵唐津柿文三耳壺》(重文)や、とりわけ愛用した《絵唐津丸十文茶碗》などの名品を、本展ではじっくり拝見。
また、満州への事業拡大を契機として中国陶磁の蒐集を本格化させ、産油国が多いオリエント地域の古代美術にも手を広げるなど、本業との関わりが垣間見える点も興味深い。
古代オリエントや中国の青銅器などは、ふだんの展示ではさほど登場しない。この種の作品を、まとめて拝見できたのもよかった。
最後の展示室(=かつては最初の展示室)を出たところの壁一面を使って、開館からこれまでの展覧会ポスターが、順番にずらっと縮小印刷されていた。
自分が初めて来館したのはいつだったか、これはいい展示だったな、このあたりの時期はご無沙汰だったな……などと振り返るのは、「出光美術館の軌跡 ここから、さきへ」というシリーズ・コンセプトならではといえよう。
こちらの壁面ディスプレイは、シリーズをとおして、同じものを拝見することができる。7日(土)からはじまる第4弾の展示でも、同様のはずだ。
第4弾は「物、ものを呼ぶ ―伴大納言絵巻から若冲へ」。「伴大納言絵巻」も「若冲」も、開館当時にはなかった。プライス・コレクションを受け入れる以前から、出光美術館といえば日本絵画のコレクションや展示・研究活動を思い浮かべる人が多いと思われるが、壁面ディスプレイをみると、日本絵画の展示が頻繁になるのは平成に入ってからのようだ。
このたびの「復刻」によって、開館当時は現在とはずいぶんと様相が異なっていたこと、時代とともに成長・変化していったことが実感できたのであった。
他館への借用などもあるかとは思うが、基本的にはほとんどの作品が、しばらくのあいだ見納めとなってしまう本シリーズ。
残る第4弾も、見逃せない。

※展覧会ポスターのデザインには、時代性が如実に現れる。昭和46年の「東洋陶磁雄品展」(「優品」でなく「雄品」)のポスターでは、いま陶片室の片隅に置かれている古備前の大甕(室町時代)の口縁に、小学校低学年くらいの男の子が体を預けてぶら下がっている。同年の「開館5周年記念展」ポスターでは、中国・宋代の影青水注が、添える片手もないまま、手のひらの上に。いずれも、現在では無理だろう。おおらかな時代であった。
※茶室・朝夕菴には、仙厓の一行書が掛かっていた。
寡欲則心自安
=欲すくなければ 心おのずから安らかなり
……見習いたい言葉である。