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応挙と蘆雪(+古九谷様式):1 /東京黎明アートルーム

 京都画壇の師弟・円山応挙と長沢蘆雪の絵画作品に、古九谷のやきものを取り合わせた展覧会。
 主に1階が古九谷、地下1階が絵画作品の展示となっていた。1階の古九谷から拝見。

 日本における最初期の色絵磁器、すなわち上絵付を施したやきものである古九谷には、いくつかの手(タイプ)がある。本展ではそのどれもを、名品でカバー。
 会場を入ってすぐには、祥瑞手(しょんずいで)の銚子が。丸文と、区画ごとに埋められた細緻な文様は、中国・明末の色絵祥瑞に由来する。還元焼成気味で若干の青みがあったが、むしろその流水のような澄んだあがりが浄らかなものと映った。注いだときのキレもよさそうだ。

 《瑠璃地色絵金銀彩富嶽文隅入四方小皿》。
 こうしてみるとすごい字面だけれど、工芸品の名称はそのものずばりを言い切ったもので、ばか丁寧というか親切なくらいである。
 青い「瑠璃」釉を「地」とし、上絵付の「色絵」と「金銀彩」を使って(=技法)、「富嶽文」すなわち富士山や日輪、たなびく雲の文様が表された(=意匠)、角をくるっと内側に入れる「隅入」の形とした四角形(「四方」)の「小皿」(=形状)。
 このように、図版がなくとも、おおむね姿が想像できるようになっている。
 四方に隅入、さらに小さな足がつく姿から、木や漆でつくられる膳のかたちを模したものとわかる。先ほどの銚子と同じく、異なる素材をやきもので写した作品といえよう。
 このかたちを歪みなく仕上げるには、相当の苦労を要したはずだ。歩留まりは確実によくない。そのなかで、本作は10客組での伝来である。
 瑠璃釉の藍色は濃く、深い。そこに、蒔絵や料紙装飾がごとくに金銀彩が散らされ、妖しく映える。展示では5客が並んでいたが、筆の動きや金銀の散らし方は、それぞれ違っていた。最も欲しいなと思った逸品。

 《色絵山帰来尾長鶏文台鉢》は、本展の古九谷のなかでは屈指の名品。リーフレット裏の中央に画像が出ている。

 上から、見込の全体がフラットに見えるように撮影されたカットだが、本作は「皿」ではなく「台鉢」。高めの高台(こうだい)をもっていて、見込の側面、縁(ふち)の部分はすっと立ち上がっている。

 ※こちらのレビューの後ろのほうに、側面から見た画像が載っている。

 このようなかたちで、しかも文様が密に描きこまれているので、行燈ケースで360度からじっくり観ることができ、とてもよかった。
 変化に富んだ幾何文と、一転して絵画的な主たるモチーフの尾長鶏、山帰来、それに側面の唐草。余白と緊密とが同居した豊かな文様構成で、観る者を飽きさせない。
 最大径が40センチほどあろうかというこの大きさ、そして上がりのよさには、目をみはるものがある。なんと鮮やかで、白がまぶしいことだろうか。
 すばらしい古九谷である。

 珍品もあった。
 とくに上手(じょうて)の作が多いとされる「八角手」の《色絵山水文八角大皿》。釉薬がどろっと流れてしまい、発色はくすんで降りものもみられる「惜しい」作だが、これはこれで、侘びた味わいもあろう。
 ドーナツ形の《色絵藤文輪形瓶》。同じ形状の類品は数点のみだ。口が後補で、こちらも「惜しい」作品。

 古九谷には、黄と緑で塗り込めた「青手(あおで)」のスタイルもある。
 こちらのコレクションでは青手よりも、これまでみてきたような「五彩手」のほうがお好みなのかなと思われたが、捻花(ねじばな)状に側面の文様が展開する《色絵芭蕉文台鉢》は、インパクト抜群なものであった。
 再興九谷も数点。吉田屋窯の《色絵鯛図平鉢》は、コブダイのごつごつした顔つきが人間くさく、なんとも忘れがたい作。以前より全集などに掲載されてきた有名作品で、この館に終の棲家を得た。

 今回も、見どころの多い珠玉の内容であった。(つづく


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