浮世絵でわかる!忠臣蔵展:2 /那珂川町馬頭広重美術館
(承前)
本展のホームページをご覧になって、びっくりされた人は多いのではなかろうか。わたしもそのひとりだ。
電車内の中吊りや新聞の下段に出ている、週刊誌の広告を意識したデザイン。おもしろい!
リーフレットやポスターは、スポーツ紙の1面ふうになっている。
ホームページには残っておらず、たいへんもったいないので、スキャンを貼らせていただくとしたい。
下世話な感じ(※褒め言葉)が、なんとも楽しい。見どころがダイレクトにしっかり伝わってくるので、大いにアリだろう。
展示は『仮名手本忠臣蔵』の丁寧な内容紹介、次いで四十七士と浅野内匠頭、吉良上野介といった登場人物の紹介からなる2部構成であった。
前半・ストーリーラインの解説パートでは、歌川国貞の続き物《忠雄義臣録》を背骨として活用。各段の重要なシーンを、一枚絵を使って絵解きしていた。
下図はそれぞれ、殿中での刃傷沙汰、雪中の討ち入り、内匠頭の墓前に吉良の首を供える場面である。
国貞《忠雄義臣録》の合間には、国貞自身や他の絵師による、同じ場面を描いた別の作品が織り込まれていた。描写の相違には絵師・版元の個性や解釈の違いが表れているようで、興味深いものがあった。
国貞《忠臣蔵焼香ノ図》は、先ほどの3枚めと同じ墓前のシーンを描いたもの。同じ国貞ではあるが、かなり趣が異なる。
明け方、仇討ちを果たした内蔵助はじめ四十七士が、主君の眠る高輪・泉岳寺へ凱旋する。
品川沖に朝日が昇る。雪中を往く義士たち。その姿に庶民は喝采、犬すら喜び外駆けまわる……
泉岳寺には以前、うかがったことがある。そのため、本作に描かれる地形や位置関係が実際の現地を踏まえていることがよくわかった。
左手のあたりは、JR山手線の高輪ゲートウェイ駅(この駅名、まだ違和感がある)。そこから丘陵を登っていく地形、泉岳寺の境内……これらはほとんどそのまま残っている。
段ごとの解説パネルは終始くだけた調子で、入門編として来場者に徹底的に寄り添おうというスタンスがうかがえた。
浅野内匠頭に対する吉良上野介は「パワハラ」で、加古川本蔵の娘・小浪は「(大石の息子の)力也くんと結婚したい」……などなど。現代風に置き換えが可能な内容は、できるかぎり置き換えて解説されていた。
上で例に挙げた場面はどれもおおむね史実通りだが、このわかりやすい解説パネルのおかげで、浄瑠璃および歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』にはかなりの創作部分があるのだということも理解できた。
よく知られた名場面の前後や中間はフィクションで埋められ、史実よりもずっと複雑な人間関係が繰り広げられている。刃傷沙汰や討ち入りなど、要所だけは史実から借りつつも、それ以外はオリジナルの要素がかなり強いように思われた。
もちろん、史実の赤穂事件に沿った内容とすれば、お上からきつく睨まれてしまう。その隙を与えないために、サイドストーリーを挿入して希釈しようとした面もあったのだろう。
だがそれ以上に、江戸の観衆たちを飽きさせない工夫であったに違いない。(つづく)
※そういえば、佐賀県が似たデザインの広告を出していた。こちらは本物の中吊り広告。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?