コミュニケーションの場づくりに潜む落とし穴【全文無料】

新型コロナによって「家飲み」や「おうちごはん」の市場が以前にも増して急拡大しているそうです。

テイクアウトやデリバリーサービスも充実しはじめ、ますます、家から出なくても美味しい食事が手軽に楽しめる時代になりました。


一方でリアル店舗のほうはというと、単に腹を満たすだけの場所ではなく、もっとほかのメリット、とりわけ個人店であれば、コミュニケーションの場としての価値がより一層、求められると言われています。

あのマスターに会いに行こうとか、あの店に行けば良い出会いがあるかもといったような、あえて足を運ばないといけない理由がこれからはもっと必要になってくるのでしょう。


そういった気運の中で少しばかり腰の骨を折るような話をするかもしれないんですが、実は個人飲食店がコミュニケーションの場所化することって、単純にいいことばかりとは言えないと私は思っています。

生身の人間同士が集まれば、そこには必ず問題ごとも生まれるものです。気をつけておかないと、思わぬ落とし穴にはまらないとも限りません。

今日は実際にうちの店で起きた事例をお話しします。



常連さんによる「店の私物化」に危機を感じた

今から約3年前。いつも通り夜の営業をしていると、とつぜん7人組の団体さんが少しお酒の入った状態でにぎやかにご来店されました。年齢層は40〜50代ぐらい。

見ないお顔だなぁと思ったので、アルコールとつまみを数品だしたところで、その中の一人に、なにかの集まりなのか、地元の方なのかと話を伺ってみました。

するとなんでもこの7人全員が、別の飲食店で知り合った元・お客さま同士なのだそう。

閉店にともなって集まる場所がなくなってしまい、新たな店を探して飲み歩いていたところ、たまたま2軒目に立ち寄ったのがうちの店だったという話なのです。


どうやら初回でうちの店を気に入ってもらえたらしく、その後も例の店で知り合ったほかの呑み仲間も紹介してくださったりして、ほぼまいにち誰かしらそのブレーンのお客さまが来店されるように。

仕事の終わった人から店内で待ち合わせて、合流してワイワイ、なんてこともしょっちゅうでした。

まさにうちの店が「コミュニケーションの場」となったんです。



雲行きが怪しくなってきたのは、常連さんになってしばらくしてからのこと。

そのグループのごく一部の人によるものなんですが、頻繁にうちに通ってくださっているうちに、だんだんと「店の私物化」とも言える行為が横行しはじめたのです。


具体的にいうと、たとえばメンバーの誰かが出張で買ってきたお土産のお菓子をテーブルで広げて、みんなで食べはじめる。

閉店間際で食事も終わっていて、隣のお客さんにもお裾分けしたしいいよね?ってな感じなのでしょう。

それから、YouTubeを仲間うちみんなで見れるよう少し大きな音量で流したり。それがまた、突っ込もうかな、どうしようかなと迷うぐらいの、微妙な音量なんです。

こういうの、同じ空間にいて気になる人は気になるんですよね。うちの店はどちらかというと静かに食事をしたいお客さまが比較的おおい店なのでよけいです。


あるいは、離れた席に座っていた「仲間」を見つけ、大声で会話をはじめる。

これはさすがに迷惑。あいだに座っているお客さまも気分が悪いです。

あとは閉店時間を過ぎても「少しぐらい大丈夫だよ」と仲間内で耳打ちし、席を立とうとされないことも増えました。


それからもうひとつ困るのが、隣の席に座っているお客さまに話しかけて仲間にしようと試みる行為ですね。自然発生的に仲良くなることはあると思いますが、からみ酒にちかい行為はいただけません。

それが嫌な思い出となって二度と来てくれなくなったら、あるいは「あの店は行くと常連に絡まれて面倒だ」なんて噂を流されたら、どう責任をとってくれるのでしょうか。


おそらくそのお客さまたちからすると、お店を困らせているつもりなんて微塵もなく、自分たちはしょっちゅう来てお金を落としてる良客だ(だからちょっとだけわがまま聞いて?お願いっ!)という感覚みたいで。

むしろ自分たちが先頭に立って、気に入ってるお店をもっと盛り上げてあげていきたい!いかなきゃ!という、善意から生まれる責務のようなものまでどうやら持ち合わせているようなんです。

それは私たちスタッフに対するフレンドリーさからもわかります。本当に悪気はなく、みんなと仲良くしたいだけ。じっさい彼らと意気投合し、一緒に飲むような仲になったお客さまも何人か見ています。

だから私もよけいに「こういうことはやめてください」って言いづらかったんですよね。正直、売り上げ的にも助けられていましたし。

しかしさすがにこのままいくと、いずれ店ごと飲み込まれてしまうなと危機を感じました。



きちんと話したら一件落着

それでどうしたかというと、すごく悩んだ末に、マナー違反についてはそのつど声をかけることにしました。

声のボリュームしかり、持ち込みしかり「言おうかな?どうしようかな?」と迷ったときは、言うことにしたんです。

常連さんだからって特別扱いはできないし、よそでどう振る舞っていたかは知らないけれど、うちではお行儀よくしてもらわないと、やっぱり来てもらうわけにはいかないんですよね。

よそのお客さまに話しかけることだけは(品の悪いナンパ等をのぞくと)禁止にはできませんが、なるべく仲間どうしが一緒になるように席の配置を工夫するなどの対処もしました。


そもそもが気さくで親しみやすい方たちなので、きちんと話したら正してくれるようになったのにはひと安心。

思うように振る舞えないことへの不満もあるのか、コロナの少し前から団体で来られることは大幅に減りましたが、今でも2〜4名ていどの小規模で食事に来られています。一件落着です。



大事なのは、場のコミュニティを店側のコントロール下に置けているかどうか

ところで先日、ほりけんさんの書かれた、カフェに来られるお客さまに向けて提唱されているこんな記事を読みました。「そうそう言いたかったのはこれ!」と思ったので少し紹介します。


お店という"場"の上で、お客さん発信のコミュニティづくりを勝手にするのは普通に良くないと思いますよ

(中略)コミュニティを作るということはその成員であるお客さんに、コミュニティに関することの"編集権限"を与えてしまうことにもなりかねません

(中略)火のないところに煙を立てて「僕のおともだち、みんな集まれ~」みたいなのを声のデカい人がやり始めると、お店が築こうとしてるブランドが大きく毀損されるリスクもあります。

ひとことで言うと、お店の意向を無視して自分らの勝手でコミュニティづくりをすると、知らぬ間に迷惑かけてるかもしれないですよ?ということだと思います。

はい、まさしく私も、店に来てくださることは本当にありがたいのですが、ですがしかし!うちの店のルールを、私たちを差し置いて勝手に作らないで〜!ということを、あの方たちに言いたかったのです。


とはいえお客さまのせいにしていても始まりません。

私自身、自分たちの店で発生したコミュニティをきちんとコントロールできていなかったなぁと反省しました。

よく、人好きなマスターが小さなお店で常連さんとワイワイやっているような超アットホームなお店ってありますよね。

あぁいうお店のオーナーさんって、実は場のコミュニティをきちんと自分のコントロール下に置いているからこそうまくいってるんだろう、それもひとつの手腕なんだろうなぁとこの一件を振り返って思った次第です。



コミュニケーションの場づくりには店側のリスク管理が必要

このことがあってからというもの、私は安易に「コミュニケーションの場」だとか「人とつながる場にしたい」だとかいうワードを、とってつけたかのように言うのをやめました。

もちろん、人々に集いの場を提供することこそ店舗を運営する意義があるというのは以前からずっと変わらないことですし、これからそれがもっと重要な価値を生み出していくことは間違いないでしょう。

ただそこには、出前やテイクアウトにはない、人間同士だからこそ起こりうる諸問題が付きもの。

うちの事例しかり、仲間割れや色恋、ケンカ、この店はどっちの派閥だ?みたいなものまで、人が集まれば自ずとトラブルめいたものが生まれるのが世の常なのです。

そうならないためのリスク管理を、お客さまの良識に任せることなく自分たちの課題だと自覚しておかなければ、ともすると正しく操縦していたはずの船がいつのまにかアンコントローラブルになり、気づいたら遭難していた、なんてことになりかねないのだろうと思います。

人が集まる場をつくるときはそのあたり、少し慎重になったほうが良さそうです。

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