イギリスで物議を醸した紅茶をめぐるフェアトレードの話


イギリス人の生活において欠かせないもの。それを考えた時、まず思い浮かぶモノの一つが紅茶である。今日はその紅茶の背景にあるフェアトレードの興味深い話だ。


事の発端とセインズベリーの言い分

以前イギリスのフェアトレードについて調べている時に、このような記事を見つけた。


どうやらイギリスの大手スーパーSainsbury’s(セインズベリー)が、紅茶製品において国際的なフェアトレード認証の仕組みから抜けて、独自のフェアトレード基準に沿ってビジネスを進めていくらしい。

独自の基準と言っても大まかな内容は、国際フェアトレードと変わらないとしているが、自社で完結させる大きなメリットとして、フェアトレードラベルの認証団体にライセンス契約料を支払わなくていい点がある。セインズベリーは世界でも最大のフェアトレード製品の卸売業者であり、その契約料も多額になる。さらに、独自の基準を作るという事はセインズベリーにとってはいろいろ都合がいいはずだ。


上に貼った記事は2017年のニュースをもとに書かれたものだが、2019年にもガーディアンから同じような記事が出ている。

こっちの記事ではセインズベリーがフェアトレードプレミアムの不透明さに不満を抱いていると書いてある。フェアトレードプレミアムとは、

輸入組織により品物の代金とは別に支払われるプレミアムは、組合や地域の経済的・社会的・環境的開発のために使われる資金

のことである。

このプレミアムの用途は生産者組合で民主的に決められている。例えば、機器の購入、品質や収穫高を向上させるためのトレーニング、組合運営に必要な設備の整備、コミュニティー発展のための設備の充実、学校の整備、奨学金制度等の教育などに主に使用されているみたいだ。

しかし、セインズベリーは自分たちが寄付したプレミアムが何に使われているか不透明であることを問題視しており、だったら自分たちのコントロール下で寄付のお金を使ってもらおうと考えているのだ。


独自のフェアトレード基準を持つことの問題点

今までのセインズベリーの言い分を聞くと彼らの言い分に納得してしまいそうになる。しかし、フェアトレード認証の団体、生産者の側に立つとまた違った視点が見えてくる。

なぜ独自の基準を持つことはよくないのだろうか?上の記事では以下の様な問題点が指摘されている。

第1に他のブランドも抜ける可能性がある。フェアトレード認証のグループの中でも大きな影響力持つセインズベリーが抜けることで、じゃあ私たちもという企業が出てきてもおかしくない。

第2に第三者機関によるチェックができなくなる。そもそも、このフェアトレードの仕組みは、企業だけに任せてしまうと、権力を持っている企業が生産者とのやりとりの中で搾取をする構造をつくることへの問題意識から生まれている。つまり、第三者が監視することで公平公正な視点で判断し、不平等を是正することができるのだ。しかし、それを独自ですることになると、また手を変え品を変え搾取する構造がつくられる可能性がある。

最近、グリーンウォッシュと呼ばれるあたかも環境に配慮しているようにみせかけた広告や企業活動が増えている。環境に配慮するのも結局は利益のためとなるのはわかるが、そこに実態が伴っていない企業がいるのだ。第三者機関の監視ができなくなることは、このグリーンウォッシュの更なる増加につながる可能性がある。

第3に消費者の混乱を生んでいる。現在は基本的にフェアトレード認証のラベルが公平性を保っている証として広く認識されているが、ここにセインズベリー独自のラベルが入ってきており、その他のブランドも独自のラベルをつくるとさらに種類が増え、消費者が混乱する。どのラベルが信用できるものなのかわからなくなってしまうからだ。


このように第三者による監視システムがなくなり、それぞれの企業が独自のフェアトレード基準を持つことで、様々な影響があると考えられる。だからこそ、セインズベリーの行動は物議を醸しているのだ。


終わりに

正直、これらの情報だけでどちらが良い悪いと一概に言うことはできない。不平等な取引や立場の弱い生産者が搾取をされる状況は改善されるべきである。一方で、企業からプラスで寄付をもらっているプレミアムは、透明性と共にできるだけその用途を企業に納得してもらえるよう説明がなければならない。それぞれの思惑を話し合うことで折り合いをつけ、協働できるといいのだが・・・。

ただ、これだけはいえる。生産者の存在を忘れてはならないということである。往々にして、このような議論は権力者側で行われる。なによりも怖いのは、本当に守られるべき生産者が置き去りにされていくことである。社会に存在する不平等を改善していく取り組みだからこそ、彼らの声が重要だ。



「良し書き終わった、紅茶でも飲みながら一息つくか」と思ってキッチンの棚を開けたらなんと問題の"紅茶"を発見した。


画像1


これがセインズベリーの"Fairly Traded"の紅茶。

僕の場合、紅茶はそこまでの日常でもないし、ある種のミーハー気分で買っている。これも他との違いに気づかず、せっかくイギリスにいるから色んな紅茶を飲んでみようくらいの軽い気持ちで買っていた。

一方で、イギリス人にとって紅茶は生活に欠かせないものである。そんなイギリスの日常に溶け込んでいるものだからこそ、その背景に何があるのかを知ると面白い。

背景を知ると、外国人の僕にはどれも似たように見えていた紅茶たちが、少し違って見えてくる。ブランド名や味だけでない選び方をできるってなんか通な気がする。


(最後かっこつけてみたが、セインズベリーのこの紅茶が他と違って見えたのはきっとパッケージが目立つ赤だからだと思う)



執筆者・東京人










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