『おふくろが呆けました』〜⑤記憶が混とんとしているんだな・・・
おふくろは山梨県との県境の近く、長野県信州の出身です。
今でも兄弟、親せき、友人がいることもあり数年前までは生まれ育った家に私と一緒に車で帰ることがありました。
そんなことも影響しているのでしょうか。
ある時、いつものように仕事を終えてからおふくろの家に行くと少し驚いたような顔をして「良かった、待っていたの。さあ一緒に帰えりましょう」と言うのです。
一瞬何を言っているのだろう、当初はその意味が分からなかったのですが、よくよく聞いてみると自分は今長野県の家にいると思い込んでいたようです。
用事も終わり東京の自分の家に帰ろうと思っていたところに私が顔を出したので驚いたようでした。
「帰るってどこに帰るんだい」と私。「東京の家に帰るんだよ」と言うおふくろに仏壇を指差し祖父、祖母、そして親父の遺影を見せて「ここは東京の家だよ」と伝えると少し驚いたように「あーそうだったね」と照れたように笑っていましたが自分でも何かおかしいなという思いがみられました。
またある時は「昨日はたくさんの人が家に来て、それぞれに好き勝手に食事をしているんだよ。あの食事代金は私が出さないといけないのかい」いきなりそのような話をされると私も何を言っているのか考えてしまいます。この家にたくさんの人が来ることはない、ましてや食事をすることは絶対にあり得ない。
よくよく考えるとショートステイにいた時の事を思い出したようでした。リビングルームにたくさんの人が集まり食事をしたことを思い出したのでしょう。
「千葉の家はどうなっているかね」突然そんな言葉を私に問いかけてきました。
親父が健在の時に千葉県大網の近くに家を建て、ゆくゆくは東京を離れて千葉に移り住む予定だったのです。そんなこともあり週末は三人で長男の車で千葉県の家を訪れては休日を楽しんでいました。その千葉の家も親父が亡くなった後は売却をして現在はありません。昔の楽しかった頃の事を思い出したのでしょう。
このようにおふくろは現在と過去の思い出の中に自分の身を置くようになりました。その中でも幼少時の思い出が強くなってきているのでしょうか、自分が生まれ育った長野県の家にいるような話が多くなってきたのです。
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