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「インスタ映え」の向こう側へ

昨年から、熱海の商業施設で、プロデュースのお仕事を複業ではじめさせていただきました。昭和63年にオープンした歴史ある場所で、四季折々の花が咲き乱れる、広大な公園施設です。

もともと、(どこの観光地でもこの問題はあると思いますが、)客層が高年齢化していたのですが、2018年に、公園の頂上に隈研吾さん建築のカフェができたことによって、若者の観光客が急増し、今や、若者が熱海にきた時の、王道観光スポットの1つになっています。

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そんな場所で私は、自分のような若年層がもっと楽しんでくれる仕掛けなどの企画を考えるお仕事をしています。

若者向けの施策となると、どうしても無視できないのは、SNS、特にInstagramでの仕掛けです。実際にその施設に来てくれている若い方達に、どうやってここを知ったのか?と尋ねる機会があったのですが、その時は、7~8割くらいの方がInstagramで調べました、と言ってくれました。

確かに、私自身も、旅やおでかけをする時にまずInstagramで行きたい場所を探す、という検索行動が当たり前になってきていたのが実感値としてありました。

ただ、そんな中で最近自分が目にする「インスタ映え」と言われるものに、少し釈然としない気持ちが芽生え、葛藤を感じることが増えてきました。

世の中で、数年前に「インスタバエ」なんていう造語が生まれてしまうような状況をみても、なんだか、やるせない気持ちになってしまいます。


写真映え・インスタ映えに感じる葛藤

確かに、見た目の可愛さ、美しさというのはそれだけでも魅力を作り出しやすいし、ビジュアルを追求するのは、わかりやすく、非常に重要だと思っています。

私自身も、「イメージ先行・イメージ重視」で企画を考えることも多々あるので、写真に撮って映えるもの、視覚的にわかりやすいもの、を考えることが多いのは事実としてあります。

しかし最近、「写真を撮られるためだけに存在するもの」が非常に増えてしまったな、と感じてしまうことがある・・・・。

「写真を撮らせること、撮ってもらうこと」、それ自体が目的になってしまい、本来伝えたかった、その場所・そのお店・その商品の魅力が何なのか?が伝わり切らずに、消費されてしまうモノゴトがあまりにも増えてしまっているのではないか?

いわゆる「映え」を目指したものをみると、そんな消費のされ方に「これで良いのか?」と葛藤することが増えてしまいました。


インスタ映えの向こう側にあるもの

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「映え」の向こう側に、一体どんな体験があるのか?

当たり前のように、ビジュアルが重視される今の時代。

そんな時代だからこそ、写真を撮ってもらった先に一体どんな体験やどんな価値があるのかを注意深く観察し、デザインしていかなければならないと感じています。

こんなことを考えている中、自身が関わっている熱海の施設でのいくつかの取り組みで、非常に嬉しい出来事や良い気づきがありました。


「海」から季節を感じることができる、熱海

現在、だいたい月に1〜3回ほどその施設に通って打ち合わせを行なっているのですが、毎度楽しみにしていることがあります。

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それは、季節ごとに違った顔を見せてくれる、熱海の海です。
不思議なことに、春の海、夏の海、秋の海、冬の海、どれも違った表情を見せてくれるんですね。夏の海なんかは、太陽の光がふかーーい場所まで届くので、とても濃い真っ青な海が見えて、波があまり立たない熱海の海はその光を反射してきらきら輝いていて。本当に美しかった。

家の近くに海がない環境で育った私にとっては、こんなにも、「海」で季節を感じられることがとても新鮮で、何度訪れても、毎度毎度癒されています。

私がいつも打ち合わせをしているオフィスも、こんな海の目の前で、いつも美しい景色を眺めながら仕事をしています。(癒し。。。)

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こんな話をふと社員さんにしてみると、「もう当たり前すぎて何も思わなくなっていた」とおっしゃっていて、非常に驚きました。地元出身の方も多いとなると、確かにもう何十年も海の景色があるのが当たり前すぎて、豊かさに気づくことも難しくなってしまうのだなあ、と感じました。


熱海の景色を、記憶の片隅に残してもらいたいという思いから生まれた場所

来場者に楽しんでもらう仕掛けを施設の人と一緒に色々と検討し、園内には、海が間近に見える崖の近くにこんなベンチを作りました。

熱海の海と空が一望でき、間近で海を感じられる場所です。

実はこの場所は、園内の頂上から海側へくだったところにあり、それまでは、お客さんはその場所まで降りていってくれず、人が立ち寄らないエリアでした。(汗)

しかし、園内を散策するうちに、一番熱海の海を間近で見れて、海と空との交わりを感じられる場所は、ココではないかと気づいたのです。

園内の見所は、咲き乱れるお花ももちろんのことですが、何と言っても私自身、一番感動したのは、熱海の海の青さと地平線の美しさでした。東京に帰ってからも時たま海の写真を見返して癒されたり、次来る時の海と空の表情を想像して、とても楽しみにしている自分がいました。

私にとって熱海の景色、熱海の海を眺めることは癒しでもあり、明日への活力になっていることに気がついたのです。

東京(都会)に帰っても、あの熱海の海の色を思い出して、その日のことを懐かしんでほしい。一緒に海を眺めた人のことを思い出して、穏やかな気持ちになってほしい。

熱海への旅行で見た景色が、その人の心を少しでも豊かにして、明日への活力となるような、体験をしてほしい。

そんな体験を作りたい、と強く思ったのがきっかけで、海が一番楽しめる場所に、このような仕掛けを作りました。

もちろん、来てみたいと思ってもらえたきっかけは「映え」かもしれないのですが、訪れた人が、1秒でも海を眺める時間を増やしたい、熱海の海をその目で満喫するきっかけを作りたかったんです。

実際にこの場所ができてから、いつもは人が降りていってくれなかった頂上の下のエリアにも近づいてもらえるようになり、SNSのコメントをみても、「海と空」に言及した投稿が明らかに増えました。

インスタ映えの向こう側へ

「写真を撮ること」を通じて、与えられる体験とは、一体何なのか?

当たり前のことかもしれませんが、インスタ映えは「トリガー(手段)」でしかなく、忘れてはならないのは、その場所、そのモノの魅力をより深く感じることができる、という点ではないかなと。

写真を撮って消費されるのではなく、写真を撮ることが、明日への活力、その人の心の豊かさに繋がってくれるようなものを、作っていきたいなと強く思うのです。

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特に熱海という観光地は、旅で訪れる人がほとんど。旅の思い出というのは、いつだって自分の心を支え、力をくれる存在であると私は信じています。

インスタ映えの向こう側を見据えて、見る人を豊かにして、訪れるひとの心を癒す、そんな思いや意図を持ってものづくりや、観光マーケティングをしていきたいなと思うのです。そして、そんな場所やモノが世の中に増えると、もっとわくわくする世界になるんじゃないかなあと思っています。










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kobamiho/ 小林未歩
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