
たられば<3話>
プレゼント
「ごめーん!!!待った?」
2019年12月。その日も、アヤのキャリアウーマンぶりは健在であった。
1時間の遅刻でアヤは到着する。聖なる夜を祝うために、シュンとアヤは、2人が出会った駅前で待ち合わせしていた。
駅前は幻想的な光に包まれ、辺りは幸せそうな男女で溢れている。
「いや全然!!」
シュンはここでも自分を殺す。殺すというより、これが彼の持ち味であり本心なのかもしれない。実に優しい男性だ。
そして予約した高級レストランへ光の道を歩き出す。
2人で過ごす初めてのクリスマス。
「今日は手繋ごうか。」
シュンは照れ臭そうに話しかける。奥手な彼にしてはよくやった方だ。
「え~」
アヤはやむなしに手を握る。そんな言葉を発しつつも、彼女は幸せそうな表情をしていた。
絶世の美女を隣に置いて歩いている、そんな自分をシュンは誇らしく思った。
こんな日常が永遠と続く。
この2人と同じように、それは誰もが考え疑わなかった。
レストランで食事を終え、シュンの自宅へ向かう。今日の夜は、2人で過ごすことを決めていた。
玄関を開け、先にアヤを通す。
「えっ!!!なにこれ!!」
下駄箱の上には、ラッピングされた箱が置いてあるではないか。
アヤはプレゼントだと感づき、手も洗わず箱を持ってリビングへ急ぐ。
シュンも遅れまいと、慌てて靴紐に手をやる。こういう時に限って、紐は固く結ばれていた。
「やったーーーー!!!!!これだよ、これこれ!!!!」
やっとの思いで紐との格闘を制した瞬間、部屋の奥で歓喜の雄叫びが聞こえてくる。
アヤは時々、幼い子供のように感情を露にする。仕事のストレスでもあるのだろうか。職場では絶対に見せない姿であろう。
「これを見れるのも、俺だけなんだろうな。」
彼女の意外な一面が、シュンにとっては溜まらなく愛しかった。
靴を揃えリビングに目をやると、ピンクの腕時計を自慢するアヤが、まだかまだかとシュンを待っていた。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
2026年、4月。
シュンは、2人で始めて過ごしたクリスマスを思い出す。
あの時のように、今にも部屋の奥から歓喜の声が聞こえてきそうだ。
靴を履き終え家の鍵に手を伸ばす。同時に片手でポケットの中身を確認した。
「やっぱり鍵は置いていこう」
彼は決意を固めた。
※ この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
続く