取り調べ資料26【手紙】
堊くん、本当にごめんね、ずっと謝りたかったんだ。
遥ねぇの父、東雲雄二は僕にそんな言葉を吐いた。
行方不明情報の拡散は案外早くない、大分での情報はまだ大分でくらいしか出回っていないはずだから、それほど、みゅうのことを心配する必要はないだろう。だから警戒すべきなのは、僕の方だと思っていた。だが案外拍子抜けではあった。
君が悪いわけではないことも、子供の君にやるせなさをぶつけることの愚かさも分かったうえで、あの日僕は君に酷い言葉を吐いた、それから君たち家族は大分へと越してしまって、凄く後悔してたんだ、ずっと、謝りたくて…
いえ…そんな、お気になさらないでください、お気持ちは、お察し致します…僕よりも比べ物にならない苦しみを抱えていらっしゃったと思います。それはおそらく今も苦しんでいらっしゃるでしょう、どうか、僕のことなど忘れて、少しでも心を楽にしてください…
それから僕らは他愛もない話をした。
娘の墓参りに来てくれてありがとう、会えて良かった。
いえ、僕らも出会えて良かったです、ありがとうございました、またどこかで
ごめんね?大丈夫だった?みゅう
…うん。少し怖かったけど、しろくんと一緒だったから…
…よかった。
じゃあ、お墓参り、しよっか?
俺さぁ、手紙を書いて、遥ねぇに謝ろうと思ってたんだ、遥ねぇにありがとうって言おうと思ってた。でもさ、今、遥ねぇのお父さんに謝られて、なんか拍子抜けしちゃって。
…というと?
俺はあんなに苦しんだ言葉を会えて良かった、申し訳ないと思ってるで済ませられて、なんだかやるせなくてさ、勝手に謝って勝手に自己満足して、勝手に全部解決した気分でお礼なんて言うんじゃねぇよって、謝られたって俺の時間も苦しみも帰ってきやしないのにね。
しろくん…
直接言われたら許すしかなくなっちゃうよね。
それは…でもお父さんもきっと、後悔してたんじゃないかな?
気持ちを自分たちの尺度で捉えるのが、見当違いなんじゃないかって思ったんだよ。
誰もが自分の視野の限界を世界の視野の限界だと思っている ーアルトゥル・ショーペンハウアー
ってね、だからもう遥ねぇに言葉を連ねるのもやめるよ、ってかもう、おねぇちゃんじゃないし。
あはは…
おーーい!!!!!!こんなに大きくなったぞー!!!!遥ねぇー!!!
助けてくれてありがとう!ずっとそばにいてくれてありがとう!
もう1人で大丈夫だよー!!!
だから…また、たまに会いにくるよ。
用意していた手紙を粉々に破いてしまって、その時吹いた風に手紙を、文字を浮かべて空に飛ばした。
さようなら、初恋。