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取り調べ資料27【僕らに明日があったなら。】

と言うことで、僕らの逃避行は終わりを迎えることになる。
祖父母の家に迎えてもらった(ここでもやっぱり多くの苦難はあった。)僕らは2人で少しの間だけ、穏やかな時間を過ごした、本当に本当に兄弟みたいに、君の匂いに包まれて寝る日々はもう悪夢なんて見なくなっていて、目を覚ませば君が笑ってそばにいてくれる日々は永遠に続いてくれればいいのにと思うくらい幸せだった、ずっとこのまま2人でいたいと思った。
この気持ちは愛から恋に変わった。

君が好きだと全部終わったら伝えようと思う。
君がいればもうそれ以外何もいらない、君がいればクソみたいな家庭環境も、嘘ばっかりで生きてきた人生も、障害やトラウマで埋め尽くされた生涯も、明るく笑ってくれる君さえいればそれだけでいい、それだけでいい、それだけでいい!
ずっとそばにいてくれないだろうか。
それはもう遥ねぇの代理なんかじゃない、篠崎みゅうという1人の人間として、そばにいてほしいんだ。


毎日みゅうの他愛もない話をうんうんと聞きながら、ニュース番組を見続ける。
結論から言えば僕の作戦は功を奏することになる。




ーーーー行方不明とされていた篠崎みゅうちゃん(13)について、保護者である、篠崎美来さん(30)と美来さんと交際していたとされる山本雫さん(26)が虐待及び児童淫行罪などで身柄を確保されました…事件が発覚したのは…

ー(プライバシーの為少しぼかします)ー

……以前篠崎みゅうちゃんについては見つかっておらず、警察は捜索の範囲を広げる見込みです。また、同級生の池川堊くん(13)についても同時期に行方不明になっており、関連性があるとして調査を進めています。行方不明の方について情報がございましたら、下記の電話番号、もしくはメールアドレスに連絡をお願いいたします。
では、本日は児童虐待の専門家上田さんにきていただいておりま…




…僕の勝ちだ


後藤さんからもらった電話宛に電話をかける。

「もしもし、警察の後藤さんであってますか?」
「はい、はい、あの時おせわになりました、池川です、みゅうの身辺を洗って下さったのは後藤さんですか?」
「あ、本当に...ありがとうございました。僕らは今宮崎で祖父母の家にやっかいになっています。」
「もちろんです、助かります。」
「あ、いえ、自分たちで出頭しますよ。」
「あ、そうですか、それならお願いします。」


僕らはこうして保護される。
まぁ望んだ結末になる程世界は甘くはないのだけれど。



同日14:27   篠崎みゅうー発見、保護
      池川堊 ー出頭、身柄を確保



ーーー「と…その後のことは、僕が話さなくても、警察署に資料がありますよね。後藤さん?」
「....堊くんは情状酌量の余地ありとして、釈放、カウンセリングを受けられる様手配、篠崎みゅうさんも、しばらくの間児童養護施設とカウンセリングルームでの対応…を。篠崎さんの母については証拠不十分で不起訴、山本雫さんに着いては未成年者に対する性的暴行を行ったとして、その後裁かれることになりました。」

「カウンセリング記録では、篠崎みゅうさんは以前とは違い、後ろ向きで鬱屈とした性格になり、執着心が苛烈で、ときおり、ボーっとして話を聞けなくなる…とあったが篠崎さんは経過観察で、また学校に戻ったさい、少しずつ快復の兆候を見せ始めたため、継続して学校へ通うことを推奨と…そして高校1年にあがってから数ヶ月、そこから施設を退所…ここまでが『警察官である私』が知り得ている知識になる。」

「ふふ、ありがとうございます。その…ちょっと喋りすぎて、疲れたので、そろそろ休みます。」
「そうね、そろそろ後藤さんにも帰っていただかないと…当院の面会時間は等にすぎておりますもの…」
「あぁ…それはすみません…」
「じゃあ、また夕ご飯の時間になったら会いにきますね。それじゃあしばらくおやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」



結局僕らが結ばれることはなかった。
あの日、君の手を突っぱねなければ、僕らは一緒にいれたのかな。
あの日、また手を取れれば、君が死ぬことなんてなかったのかな。


空を掴む手を見つめ、あの秋を思い出す。


僕らに明日があったなら。

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