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「デイノケイルス」人々の想像を駆り立てた10mの巨体

1965年にゴビ砂漠で
発見された巨大な腕

 砂漠から自分の背丈以上もの大きさの腕の骨が出てくる。そんな場面を想像すると、なんて迫力のある情景なのでしょうか。乾いた砂粒混じりの風を頬に浴びながら、発掘されたその巨大な腕の骨をみ上げる……。そんな瞬間が、今から60年ほど前にありました。

デイノケイルスの両腕の化石
(2019年、恐竜博2019にて撮影)

 場所は中国(内モンゴル)からモンゴル南部に広がるゴビ砂漠。その腕はダチョウ恐竜(オルニトミモサウルス)と同類のものとして分類されましたが、これまでの発見でそれほど大きなダチョウ恐竜は発見されていませんでした。この腕の持ち主である恐竜は「デイノケイルス(恐ろしいかぎ爪、の意味)」という名がつけられるほど、研究者の間で強烈な印象を与えました。

50年以上の時を経て
全体像が明らかに!

 それから約50年後の2014年、モンゴル生物でこの腕の持ち主である恐竜の全身がそろった骨格化石が発見されました。その大きさは全長10mほど。一般的な電柱の高さがそれくらいだそうで、デイノケイルスは再び注目を集めました。

 私は2019年に東京で行われた「恐竜博 2019」でデイのケイルスの全身をこの目でみたのですが、その巨大な手で握り潰されそうな畏怖を感じました。なのに、顔には凶暴そうな牙はみ当たらず、どこか温厚そうな印象もあり、体の大きさや爪の長さとは不相応な雰囲気がありました。

デイノケイルスの全身骨格。
背骨が帆のような形状になっている
(2019年、恐竜博2019にて撮影)

ダチョウ恐竜と同類
しかし羽の痕跡なし

 先述した通り、デイノケイルスはダチョウ恐竜の名で知られるオルニトミモサウルスと同類です。しかし、このオルニトミモサウルスは前肢に羽が生えていた痕跡がありましたが、デイノケイルスにはそれがありません。ティラノサウルスもユウティラヌスという同類の恐竜には羽毛の痕跡があったとされていますが、ティラノサウルス自体にはそれが発見されていません。

 個人的な意見になりますが、羽毛はある程度の大きさの恐竜には発生しないのではないか、と私は考えています。というのも、羽毛は体温調整のためのものとされており、体の体積が大きな生き物はもとから熱が逃げにくい性質があると考えられるので、羽毛を必要としなかったのではないか、と思っています。ユウティラヌスも体長は9mでティラノサウルス(体長12m)と較べるとまだ小型ではないか、と思います。

デイノケイルスの全身骨格
(2019年、恐竜博2019にて撮影)

 もちろん、これは想像の範囲なのでまだ結論はわかりませんが、こうした推察を楽しめるのもまた、恐竜の面白みだと思います。巨大な腕の化石がみつかった1965年のあの日。どれだけの人間がこの恐竜にイマジネーションを働かせたのでしょうか。それを想像するだけでも、なんだか研究者のワクワクを共有できているような気がします。

参考文献
・「恐竜調査隊が行く 50年前に発見、謎の巨大な腕 巨大ダチョウ型恐竜と判明」山陽新聞2019年4月21日
・BIRDER編集部(編)『羽毛恐竜完全ガイド』文一総合出版 2023年

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