街を眺む
時折、視界に映る景色の千年前の姿を夢想する。
僕の眼前で威圧的にそびえ立つビル群は、たった百年前ですら存在しない。
ほんの短い歳月で、これだけの事業を成した先人に感服するばかりである。
しかし同時に、世界のなんと儚いものか、という感情が生まれてくる。
この街が栄え、衰退するまでの時間も、この世界にとってはほんの一瞬の瞬きに過ぎないのだろう。
そんなことを考えていると時間とは一体何なのだろうな、と考えてしまうが、毎度襲ってくる灰色の波に飲み込まれぬよう、脳内で防波堤を築く。
我に返り、再び人の行き交う街に目を向ける。
残念ながら、僕には千年前はおろか、百年前の光景すら鮮明なイメージが掴めない。
こうして時間旅行に失敗するたびに、自分の未熟さを自覚する。
もっと人を知りたい、世界を知りたい、そんな気持ちが沸々と湧き上がってくる。
僕がいま、こうして思考し、文字に残しているという行為も、この世界に何らかの影響を与えているのだろうか。
0ではない、のだと思う。
この文字の羅列を目にすることで、どなたかの心に何らかの影響が生じれば、それはこの世界に影響を与えたといえるのか。
そして、世界はこのような事象の積み重ねで、できているのだろうか。
そんなことを考えていたら、また途方もない気持ちになってきた。
先ほどまで暖かな光を帯びていた空も、人為を感じる冷たい紺碧に染まってしまった。
この奇怪な世界を旅できることに感謝の念を抱きつつ、今日も一日の終わりを迎えることにしよう。
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