2024年映画感想No.4:ゴールデンカムイ ※ネタバレあり
アクション原理主義な構成と差し込まれる暴力描写
109シネマズ川崎にて鑑賞。原作未読。
各キャラクターの背景や価値観の対立といったドラマ的な厚みになる要素はほぼほぼ次作以降に丸投げで、実質登場人物とマクガフィンの設定の紹介しかしていないような内容だと思うのだけど、アクションが途切れないエンタメモリモリの構成が風呂敷を広げるだけの話に観客を楽しませる推進力を作り出していると思う。
冒頭の203高地の戦闘シーンがこの映画の画力を宣言するような場面になっていて、物量的な絵の強さやスケール感を観客に信用させる迫力のあるファーストシーンだった。
山崎賢人演じる主人公の異名である「不死身の杉元」っていうのが強さや悪運で生き残ってきたことの比喩とかではなく傷の治りが異常に早くてめちゃめちゃ痛みに強いっていうホンモノの不死身人間ということにギョッとしたのだけど、身体が丈夫な杉元が主役だからこそ身体に穴とか開いてもかすり傷くらいでサクサク物語が進められるし、その設定を活かして常に何かしらと戦っているような構成になっている。杉元側にも基本的に「人殺しは無し」という制約があることも全体的にアクション映画として割り切って楽しめるエンタメ作品としてのチューニングを強めているように感じた。
一方で人が死ぬ場面ではギョッとするような肉体損壊描写や凄惨な絵がしっかりと映し出される印象があり、基本的に責任を伴わない暴力で物事を解決していく物語の中で随所に「人は死ぬし、暴力は怖い」ということを思い出させるような演出が意図的に観客の安心感を揺さぶっているように思う。クマに殺される第七師団隊員の顔面ぺローンの描写や203高地で死ぬ友人の両足欠損、鶴見が上司の指を噛みちぎって射殺する場面など、ハッとするような残酷な出来事が挟み込まれることでその都度「死」というものの切実さや緊張感を観客にも意識させているように感じた。
別の映画を観に行った時に別スクリーンでゴールデンカムイを見てたんであろう小学生くらいの男の子が泣きながらご両親と帰ってて「ペローンってなってて怖かったね、今度はこっち観ようね」ってドラえもんの新作でご機嫌を取られてたのが良い光景だった。しっかりショックを与える描写に必然が感じられるのが良かったと思う。
ドラマ的な厚みのなさ
杉元が金塊の存在を知るキッカケになるマキタスポーツ演じる後藤の行動がいくら考えても意味不明なのでそれがキッカケに金塊探しが始まる短絡的な展開にも戸惑ってしまうのだけど、全体的に「金塊はある」という映画全体の目的の説得力と「金塊を探す」という動機の説得力のどちらも描き方としては上手くいっていないように思う。
重要なキャラであるアシリパや白石にしても、「こう生きてきた」というバックボーンはほぼ描かれないか言及があったとしてもセリフだけという最小レベルの説明に留まっていて、彼女たちがどういう気持ちで金塊探しに合流するのかという切実な動機が感じれるキャラクターには少なくともこの映画単体では描き切れていない。たとえばアシリパでいえば杉元との関係、父親との関係、かつて村で起きた出来事など金塊探しを手伝うことになるあらゆる動機の描き方が弱いし、他のキャラクターも含めて人物の厚みに繋がるはずの要素がことごとく成り行きであっさり片付けられている印象だった。
また、アイヌ語の説明や場面転換のナレーション演出など要素の多さが語り口のテンポを邪魔している点は仕方ないと思いつつも垢抜けない印象だった。アイヌ文化を丁重に扱いたい意思は伝わるけれど、アイヌ語の単語が入るたびに説明し直すので会話が説明的だし鈍重になってしまうのがもったいなかった。ナレーション演出もそうだけれど、キャラや出来事の背景を説明ではない演出で見せることに関しては不得手な印象が残る作品だった。
アクションという作品の強み
一方でそういう弱さを補っているのがアクション的な見せ場が途切れない構成と個性的なキャラクター造形で、目で見る面白さが推進力になっている作品だと思う。その強みの部分に関しては『HIGH & LOW』シリーズの監督という作家性が活かされている部分なのかもしれない。
もはや金塊を探しているから色々起きるのではなく、色々起きるから金塊の話も本当っぽい、みたいな逆説で進んでいく話にすら見えるのだけど、その「何か起きることで物事を理解する」という順序は「常に何かしら起きるほうが面白い」というエンタメの原理原則で物語が進む方向が選ばれていることからくる描き方なのではと思ったりした。
結構いろんな人がいろんなシチュエーションでアクションする映画で、見せ場のバリエーション、場面設計の工夫に見どころがあって楽しい。戦闘スタイルの違いがそのままキャラクターの描き分けになっている点もHIGH & LOWの監督っぽさがある。ビジュアルや台詞回しによるキャラ立ての強さも個性とコミカルさを絶妙なバランスで成り立たせていて良かった。玉木宏が楽しそうに狂人を演じていて面白かったし、杉元、アシリパに多いコミカルなやりとりも物語の良い緩急になっている。矢本悠馬の生命力高い小物キャラも良かった。鉄格子くぐり抜ける時に頭蓋骨が通ったら「スポン」って音が鳴るのがバカバカしくて笑ってしまった。
「属性」による対立とそれを否定する主人公たち
人と人の対立は基本的に「属性」が理由になっていて、それぞれに戦い合う切実な動機はほぼない。その、ある意味で全員が金塊に引き寄せられることで争い合う運命に巻き込まれてしまうというのが映画全体を支配する力学のようであり、そうやって分断されてしまう立場を越えて他者との関わり合いの中で自分の運命を変えていく杉元やアシリパが主人公に設定されていることにも必然性を感じた。
大切なものを守るために奪う戦いをしてきた杉元に対して大切なものを奪われてなお誰かから奪う選択をしないアシリパの誇り高さが暴力の連鎖からの解放の予感を作り出しているのだけど、せっかく杉元が「人を殺さない」というアシリパとの約束を守って物語が進んできたのに中盤結構あっさり人を殺してしまうのが成り行き上そうしないと話が前に進まないとはいえ少しガッカリしてしまった。