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2024年映画感想No.12 告白 コンフェッション ※ネタバレあり

ハイコンセプトなあらすじと監督の作家性の融合

シネクイントにて鑑賞。
まずは「死ぬと思ったから昔の重たい罪を告白したのに生き延びてしまったので殺し合いになってしまう」というジャンル映画的な強いあらすじがあり、その中に「人生の停滞」を巡る主題という山下敦弘監督の作家性もしっかり感じられる密度の高い内容。ほぼワンシチュエーションの二人芝居というミニマムな設定、74分というタイトな構成ながらとても見応えがあった。

緊張関係の必然を作り出す手際の良さ

大学登山部の卒業登山で一緒に登っていた同級生の女性を遭難で亡くしたことが主人公二人ともに囚われてる過去の経験として冒頭に提示される。生田斗真演じる浅井とヤン・イクチュン演じるジヨンはそこから16年間毎年追悼登山をしているらしく、その誠実に友人の死を悼んでいるのだろうと思わせるエピソードがあるからこそ友人の死に関わっているという展開のギャップが「どういうことなんだ?」という掴みになっていると思う。
山小屋に避難して密室で二人きりというシチュエーションが出来上がってからのやりとりも、信頼しあっている二人がどのように緊張関係になっていくのかの見せ方が丁寧で面白かった。あるはずの物がなかったり見えないところで変な動きをしていたりと浅井の目から見えるジヨンの様子が少しずつおかしくなっていくのが手堅く怖い。一方でジヨンの衝撃的な告白を聞いてもそのことに全く触れずにただただジヨンを助ける浅井の態度もそれはそれで不自然で、こちら側のうっすら気持ち悪い事なかれ主義もちゃんと伏線になっている。

浅井目線の演出の違和感

ジヨンが情緒不安定になるほど韓国語でブツブツ呟くようになるのがいよいよ話が通じなくなった感があって怖いのだけど、映画の演出としてここの韓国語にきちんと字幕がついている。浅井目線で描くなら字幕が無い方が「なんかわからないけどブツブツ言ってて怖い」という見え方になってよりサスペンスフルになると思ったし、一瞬浅井も韓国語しゃべれるのかと思ったけどそんな様子も無いので観ていて結構違和感がある演出だったのだけど、映画を最後まで観るとジヨンの心理状態を浅井が把握できていることにちゃんと必然性がある。
思えば映画はファーストシーンから浅井の語り部目線のモノローグで始まるし、彼がジヨンに対して不安を自覚するきっかけの場面でもやや説明的なくらいわかりやすく浅井のモノローグが挟み込まれる。この、あえて違和感を作るような演出のせり出し方も映画の重層的な構造に繋がる仕掛けになっている。

マジックリアリズム的に重層性を増す構成

極限状況になるまでの人物描写を最低限にしていることで、追い込まれたジヨンの暴走に観客側の判断材料が少ないまま話が進む構成になっているのが推進力を高めていて良かった。
二人の人間性や過去の出来事ではなく「死ぬと思って秘密を話してしまった」という現在の状況だけで事態がエスカレートしていく展開になっていることで、そこから彼らの人間性が明らかになる反転の余地をうまく残していると同時に「なんでこんなことになっているのか」という原因に向き合わない浅井の視点を観客に追体験させるような構成にもなっている。
本当にジヨンがおかしくなっているのか、無かったことにしたい過去の罪と向き合わざるを得なくなった浅井の追い詰められた心理状態の象徴なのか、表面的な出来事、象徴的な出来事の両方で解釈できる重層的な構造が少しずつ見えてくる。現実的な緊張感の高まりから始まったはずの話が、エスカレートするにつれて気づけばマジックリアリズム的に象徴的な見え方に変わっているところが構成として面白かった。

モラトリアムな設定という山下監督の作家性

「過去に囚われている」というある種のモラトリアムな設定を持つ登場人物の物語になっているところは山下敦弘監督の作家性が感じられる要素だった。物理的に身動きが取れない停滞したシチュエーションに象徴的な意味があることで、「この状況をどう解決するのか」というサスペンスの論点に主人公自身が抱えている問題が上手く重なっている。
浅井がずっと逃げ続けてきたものが少しずつ明らかになっていくことで浅井とジヨンの善悪の構図に解釈の奥行きが生まれていくのだけど、一方でどこまでが本当に起こっていることなのかはグラグラしたまま進む物語になっていることで、起きている出来事に対して安心させてもらえない宙吊り感が重層的な緊張感を生み出している。
そういう「何が現実なのか」という構造を持つサスペンスだからこそ、この映画の現実に初めて"他者"が介入して「事実」が確定したところで映画が終わるラストには強い構成的な必然を感じた。その上でやっぱり「何が起きたのか」という真相には一定のわからなさを残す薄気味悪い見せ方になっているところも、浅井という人間の深い闇を安易に描き切らないスリラーとして上品なバランスの着地だと思った。


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