2023年映画感想No.28:エスター ファースト・キル(原題『Orphan: First Kill』) ※ネタバレあり
この感想は『エスター ファースト・キル』だけでなく前作にあたる2009年公開の『エスター』のネタバレを含みます。
割といきなり前作の致命的なネタバレに触れるのでご了承ください。
前日譚としての新しい視点
TOHOシネマズ川崎にて鑑賞。
冒頭に前作のオチを早々にバラされる時点で「本作の論点はそこではない」という宣言になっている。観ている観客も「見た目は子供、頭脳は大人」なこの女性の正体についてわかって観る物語ということを前提にしているし、自己言及があることで撮影時実年齢25歳だったイザベル・ファーマンが10歳の外見の役を演じることによる「大人に見える瞬間」を上手く作劇的に活かせるようにしているようにも感じた。
結構アナログな見せ方で「見た目は子供です」ということを成立させようとしているらしくて、それ自体が「そう信じ込ませる」というエスター的な仕掛けのようでもあるのが面白い。
前作と違う物語の論点
冒頭の精神病棟のくだりまでは外部の目線から「この女の子怖い」という前作を踏襲したサスペンスの設計になっているのが導入として上手い。クラシカルなホラー的ロケーションも相まってエスター登場から彼女がその暴力性を発揮するまでの一連の流れが掴みとして「期待通り」な見せ場になっている。
逆に脱出してアメリカの家庭に入り込んでからは前作から視点が逆転してエスター目線によるバレるかバレないかのサスペンスになっていくのだけど、行方不明の子供になりすましているエスターが色々取り繕うとするたびにボロを出しまくっていくのがもはやコミカルですらある。誤魔化そうとしてやったことが一つも上手くいかなくて笑ってしまうし、割と早い段階からなりすましに無理が生じていて安易なハラハラが見どころになっていくのも軽めなジャンル映画感が楽しかった。
中盤のアッと驚く反転
思ったより早くエスターが「もうこれ以上誤魔化すのは無理」的な一線を超えて実力行使に踏み切るのだけど、そこからエスターが入り込んでいた家族もヤバいやつでしたという展開になるのがジャンル映画的な思い切りの良い飛躍で良かった。
「見た目と違って一皮剥いたら邪悪」というエスターの肝になる設定が反転して連鎖していくような展開にはシリーズの批評的相対化としての必然性も感じるのだけど、やってることは「お父さんの取り合い」というしょうもない野心のためにどっちがよりヤバくなれるかの戦いというのがアホくさいけどオリジナルな露悪性があって楽しかった。
まあ物語的には家族側の見え方が反転するところでオチてるというか、それ以降は「利害のために仲良く暮らしましょう」という目的自体が破綻しているのでひたすら対立の構図を引き延ばすだけの物語にはなってしまっているとは思う。
家族の立場からするとエスターを生かしとく方が絶対にリスクあるし、エスターはエスターで特に計画性なく雑に不意打ちしたりするので、結局「これ以上は無理だ!ぶっ殺す!」となるのも「そりゃそうだろ」としか思えない内容ではある。
冒頭のお医者さんの話がきれいに前日譚の部分だけ端折られているのでもしかしたら次は『エスター ファースト・キルのファースト・キル』が来るのかもしれない。イザベル・ファーマンにはもう少し頑張ってもらおう。