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2024年映画感想No.16 キングダム 大将軍の帰還 ※ネタバレあり

豪華な役者で見せるダイジェスト演出

キネカ大森にて鑑賞。
前作『キングダム 運命の炎』から始まった趙軍との戦いの続きを描く。冒頭にあるキャストの豪華さを活かした前作のあらすじダイジェストがカッコ良かった。キングダムといえばこのオールスター感!というところをちゃんと押し出している。
前作は作品間の描いていない時間をもろにバーフバリすぎる石像ダイジェストで描いていたけど、前作の直後から始まる今作はちゃんと前作で起きたことを説明しないといけないという事もあって役者の顔で一つ一つの展開を説明するようにしているのがキングダムというシリーズの良さをストレートに押し出した演出として良いと思った。

掴み以上のことはしないラスボス龐煖

明らかにただものじゃない雰囲気の吉川晃司演じる龐煖が山崎賢人演じる信たち飛信隊のいる野営地にいきなり現れて「絶体絶命!どうする!」という前作ラストの直後から本編が始まる。信と清野奈々演じる羌瘣がタッグを組んでも手も足も出ない龐煖、強し。
一方で相変わらずモブ以外では犠牲らしい犠牲を全く描かないのは映画キングダムシリーズらしい予定調和。気絶した信の盾になった飛信隊メンバーすら一人も殺されない。前作でヤベキョウスケを瞬殺しているだけに、「あれだけ死ななかった飛信隊の仲間もこの龐煖はあっさり殺すんだ」という非情な展開で強さを示してほしかった。
何より映画を最後まで観てもここでの信と龐煖の対決がのちの物語に全く関わってこない。信が攻撃を掻い潜ってギリギリ一撃入れる展開や、内臓から破壊する龐煖の特殊な攻撃など、後で効いてくるのかなと思う描写がことごとく回収されないのでビックリした。龐煖は中盤以降に大沢たかお演じる王騎との戦いがあるのだから、その際にここで手合わせしてる信、羌瘣の二人が龐煖の戦闘スタイルを実況解説する役割にするとか、ただ戦わせるだけにはならないような構成の工夫を加えられたと思う。
作品をまたぐ級のクリフハンガーでラスボスクラスの存在感の敵将を出してきた割に、そいつのせいで否が応でも状況が変わってしまう、取り返しのつかないことが起きるといった後戻りのできない展開を描かないところは本当に行儀のよい作劇をするシリーズという印象。急に人が死ぬ、みたいなショックを演出したり、殺し合いをしているという切迫感や悲壮感を盛り上げたりはあんまりしない。

都合の良い省略

気絶した信を背負って戦場から離脱しようとする飛信隊が山田裕貴演じる万極率いる騎馬隊に追い詰められるのだけど、ここをどう切り抜けたかの描き方も酷い。
タイミングよく物陰に隠れられた信たちを逃がすために包囲されている飛信隊メンバーが一斉にバラバラに逃げて敵を撹乱しようとするのだけど、歩兵が騎馬隊に包囲されてる状況でいくら虚を突いたとしても流石にタダじゃ済まないだろうと思っていたらなんの描写もないまま次の日の朝にケロッと無事に全員集合していてびっくりした。口では「兵の数は半分以下になった」みたいなことを言っているのだけど、観客が顔を認識できるキャラクターは一人も欠けていないので部隊の絵面的にはビックリするほど無傷に見える。

情緒頼みで冗長な愁嘆場演出

彼らが包囲網をどう切り抜けたのかが描かれない一方で気絶した信を逃がそうとする岡山天音演じる尾平と三浦貴大演じる尾到側の描写はじっくり描かれるのだけど、こっちはこっちで描き方が鈍重になってしまっている。省略は上手くないし描いたら冗長、と中々良いバランスにならない。
深手を負っている尾平が血の跡を追わせるために一人別行動して囮役を引き受けたはずなのに、彼が次の日普通に仲間と合流できていて、気絶した信を背負って逃げる役を託された尾到は傷が深すぎて死ぬというのがドラマの流れとして普通に意味がわからなかった。しかも「俺が囮になる」というやり取りから丁寧に万極が血の跡を見てひっかかる、という描写まで入れ込んでいるのに、サラッと何事もなく尾平が生き延びていることに何の説明もない。ひどい作劇だと思う。
おそらく万極がひっかかっていることを見せておくことで尾到と信が安全なシチュエーションで好きなだけ会話できるというセッティングを作っているのだと思うのだけど、尾平に死亡フラグが立っている状態で死にゆく尾到との会話が始まるので、「こっちも死ぬの?!」と構成の意図がわからず混乱してしまった。
死にそうな尾到の話も長い。故郷で彼らの無事を祈る恋人が尾到、尾平兄弟のために夜な夜なお地蔵さんにお参りをしているという描写が挟み込まれるのだけど、尾到が中々死なないので恋人がお参り3往復くらいしていた。
せめて囮の件を後出しにして追っ手が迫っているのかどうかを宙吊りにしておけばただ会話を映すだけにならない緊張感が生まれると思うのだけど、それもないのでただただ愁嘆場の情緒に頼った冗長な会話になっていると思う。挙げ句命懸けで彼らの別れを演出したと思っていた尾平に何事もないのでギョッとした。尾平が信を背負って逃げてたら全員生き延びれたのでは?

余計な描写のノイズ

前作からずっと山の上で合戦を見ている橋本環奈と萩原利久、小栗旬、佐久間由依の4人。劇中で一晩経ったのにまだ同じところにいる。仲良し。
ついに王騎が出陣する合戦がスタート。まんまと引きずり出される展開になるけれど、ちゃんと強者感を保った演出がされていて良かった。ずっと王騎を支えていた要潤演じる騰が戦場でもちゃんと強いのだけど戦い方がダサいのが玉に瑕。
山本耕史演じる趙荘が自らの命を犠牲にして騰を戦場から引き離す囮を演じるのだけど、本当に無抵抗で死ぬ割に無駄死にすぎてびっくり。騰側に「しまった!」的な描写すらないし、展開的に騰を引き離したことが大勢に影響するということもない。何だったのだろうか。

とても良いアクションに弱いドラマを挟み込む構成

王騎と龐煖の戦いはとても良かった。ちゃんと見応えのある矛対矛の重量級のタイマン。アクション自体の水準が高い一方で、それと並行して王騎の過去を描く構成はテンポを損ねているだけであまりうまく行っていない印象だった。せっかく良い感じのアクションが来てもすぐに回想が挟み込まれてしまう上に、描かれる過去が現在の二人の戦いの優勢劣勢に上手く響いているわけでもないので単にテンポが悪くなってしまうばかりだし、描かれる過去それ自体もキャラクターのドラマとして弱いと思う。
「王騎に結婚相手が!?」という意外性のある過去の提示から入るのは良かったし、そのフックとして16歳が婚約者という不自然さが「ただの恋愛関係ではなさそう」という二人の特別な信頼関係への良いフリにもなっていると思うのだけど、だからこそいわゆる恋愛的な関係性じゃなくても良いから新木優子演じる摎との関係がいかに特別だったかをもっと説得力のある描写で描いてほしかった。
「将軍が妾の子を引き取って一人前の武将に育てた」というだけで物語的には成立すると思うのだけど、それを結婚相手にするって結構グロい設定だと思うし、死の真相に関しても摎を殺した龐煖は別にすごい汚い手を使ったとか、すごい残酷な殺し方をしたとかでもなく普通に真っ向から戦場で摎を倒しただけっぽくて(しかも王騎はそれを目撃すらしてない)、こんな普通のことででずっと一方的にブチギレてる王騎は大丈夫かと思った。
将軍として戦場で戦ってきた王騎と武神として一人で自分を磨いてきた龐煖の差について王騎が「自分は倒れてきた味方の思いを背負っている」と説明するのだけど、それを大声で力説した直後に羌瘣が「何で王騎将軍は武神より強いんだ」みたいなことを呟いてて「話を聞いてなさすぎだろ」と思った。王騎の演説場面に「しっかり話聞いてます」っていうカット、あったと思うんだけどな。

美味しくなりそうな場面の演出のもったいなさ

小栗旬演じる李牧が参戦することでまた形勢が変わるのだけど、彼の正体が明かされる場面の演出も素直すぎる印象だった。
長澤まさみ演じる楊端和が吉沢亮演じる嬴政に説明する形で彼が何者なのかが明らかになるのだけど、まず嬴政の察しの悪さに笑ってしまうし、楊端和が名前まで全部言い切ってから李牧を映すカットに切り替わるのも全然タメがなくてワクワクしない。楊端和の「その名は...」でカットを切り替えて小栗旬に「趙軍軍師、李牧です」って改めて言わせるとか、盛り上げるための演出の工夫が全然無い。

これでもかと引き延ばされる王騎の死に際

横槍が入って王騎は負けるのだけど、何とか全軍で戦場を離脱。相変わらず主要キャラは致命傷を食らっても中々死なない。めちゃめちゃしっかり引き継ぎをしてから死ぬという上司の鏡のような引き際。
悲しみに暮れる秦軍を信が鼓舞することで将軍の器を示す。序盤の尾到が死に対して尾平が見せた気丈な振る舞いから学ぶ、と言ったドラマチックな伏線回収などは特に無し。
王騎落ちはだいぶ戦力ダウンな気がするけど、秦は今後大丈夫だろうか。趙には序盤にちょろっと飛信隊を追い詰めたあとは登場すらしなかった万極が控えているというのに。
騰の役割が大きくなりそうで、今後彼がシリーズの顔になるのだとしたら成り上がりとしては熱い。願わくばもう少しキャラクターの交通整理が上手になって欲しいシリーズではある。次作以降に期待(もう4作同じ感じだけど)。

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