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プロのビビりが笑気ガスを吸いながらプチ手術を受けた話

あなたは過剰歯(かじょうし)の抜歯のために笑気(しょうき)ガスを吸いながら、歯茎を切開されたことがあるだろうか?

私はある。

・・・・・

人はひょんなことから自分の口の中に「過剰歯」があることを知らされる。


私は歯列矯正を始めるべく通い始めた歯科医院で知らされた。


医師の口から出た「過剰歯」と言う聞き慣れないワードにきょとんとしていると、医師は続けてこう言った。

「紹介状を書くので、
過剰歯を口腔外科で抜いてきてください。



これを日本語に訳すと「歯茎を切開し、過剰歯を取り出し、縫い付けてこい」という意味になる。

めちゃこわだ。



「怖いです」と言ったが「はい」と聞こえたようで、
口腔外科への紹介状を手渡された。




てぇへんなことになった。


そもそも過剰歯って?
過剰歯とは正常な歯の数を超えてできた歯のことです。
日常、私達歯科医師が遭遇する機会は少なくないです。
一般社団法人豊橋市歯科医師会 ニュースダイジェストより)


つまり私は人よりも歯が1本多いらしいのだ。
そして同じような人は一定数いるらしい。


これを夫に話すと、
それってさあ、すごくね?人類の進歩じゃね?」とのことだった。


彼は人類の永久歯の数が増えていくと考えているのだろうか。
はたまた、人類はサメのように、永久歯が欠損したら新たな歯が生えてくるフェーズへ移行していくと考えているのだろうか。
私はそんな未来人にちょっと近づいた個体であると言いたいのだろうか。



当事者の私はこの過剰歯を、細胞分裂のバグだと思っていたので、
ポジティブすぎる視点に感銘を受けた。


・・・いや、感銘を受けている場合ではない。

この進歩だがバグだかのせいで、プチ手術を受けることになったのだ。

てぇへんなのだ。

27歳のいい大人がここで駄々コネしてもしょうがないので、
紹介状を片手にちゃんとしてそうな口腔外科へ行った。

口腔外科の院長と名乗る先生の話によると、
私の上顎の裏(さらに言うと前歯の根っこあたり)に、
過剰な歯がまるっと1本埋まっているとのことだった。


過剰歯にもいろんなパターンがあるそうで、
歯茎を突き破って表面に露出する過剰歯や、
永久歯が生えるための進路を妨害する過剰歯があり、
これらは積極的に摘出されるらしい。


私の過剰歯は見た目には全くわからないし、
永久歯が生えるにも問題なかったので、放置する道もあったが、
歯列矯正をするとなると摘出が必要らしかった。




院長は続けてプチ手術の流れについて説明をした。

歯茎を切開し、過剰歯を取り出し、縫い付けるらしい。

めちゃこわだ。そして手順は想像通りだ。



私と同世代くらいの歯科助手さんが院長と入れ替わりに現れた。

歯科助手さんは事前に告知すべきことをあれこれ説明してくれ、
最後に「なにかご質問はありますか?」と言った。

私はただ一言「怖いです」と伝えた。


病院と名のつく場所では、私が痛みに弱く、ビビりであると必ず明言するようにしている。



恥ずかしい気持ちはビタ1㎜もない。

ただ今すぐそのカルテに、
「痛みに弱い方」とか
「ビビりでいらっしゃる」とか
「チキン野郎」とかって書いて欲しい。


そして病院中に私がビビりであることを周知させて、

みんなで私に“優しく”してほしいのだ。


だから質問はないかと聞かれたのに文脈を無視し、
「怖い」と感情をぶつける運びとなった。

27歳、いい大人の、駄・々・コ・ネ、death!


「じゃあ、笑気ガス、使いますか?」

っっっっっっしゃ!


「使います!」

実はずっと“さわやか診療のお知らせ”が
見えるところに置いてあった。

(画像はこちらからおかりしました。)

笑気吸入鎮静法とは。
歯科治療に対して恐怖心が強い方におすすめの「笑気吸入鎮静法」は、「笑気ガス」をという気持ちが落ち着く作用のあるガスを吸うことで、非常にリラックスをしたストレスのない状態で治療を受けていただける処置です。(安倍歯科医師HPより)


“笑気ガス”の言葉には、
漫画家・さくらももこさんのエッセイ「たいのおかしら」に収録されている『歯医者に行く』で出会っていた。

笑気なんちゃら法と難しく書かれていても、すぐにピンときた。


さくらももこさんによると、

笑気ガスを吸うと『アラビアか何かの王様になった気』になれるとのことだった。

おもしろすぎる。



・・・いや、おもしろすぎがっている場合ではない。

プチ手術をせなならんのだ。

「逃げ出したい」と「ガス吸いたい」の
気持ち配分は9:1なのだ。

ちょっとしか楽しみじゃない。


ともあれ、こうしてプロのビビりが笑気ガスを吸いながら、
プチ手術を受けることが決まった。

・・・・・


実はこれを書いている今日は、プチ手術から1週間が経過し、
縫いつけた糸を抜いてきたところなのだ・・・!



結論からお伝えすると「笑気ガスしか勝たん!」だ。

プチ手術当日の、私の体験を聞いてほしい。


私は重すぎる足取りで病院に到着した。
受付の人が“ビビりの人だ!”という顔で迎えてくれた(大嘘)。

待合室では身体中の血液がドロドロになるのを感じていた。



程なくして私はガラス張りのプチ手術室へ通された。

意外とシンプルな空間だった。
手術台となる椅子は、よくある歯医者さんの椅子と変わらない形をしていたが、
座ってみると高級ソファのようにふわっふわだった。

VIP対応が逆にこわい。


麻酔が切れた時のためにと、ロキソニンの錠剤を渡されたので飲んだ。

右手の人差し指に洗濯バサミみたいな機械をカポッとはめられ、
左腕に血圧を測るベルトが巻かれた。


てぇへんだ。



メーデー、メーデー、メーデー。
ついに手術台が倒され、人生初の笑気ガスの吸入が始まった。
ほのかに甘い香りがした。


・・・そいつは先っちょからやってきた。



足先から、指先から、ふわふわ〜っと軽くなるのがわかった。
数秒後には身体全体にふわふわが回り、頭がぼぅっとした。



何より眠くて眠くて、目を開けていられない。
今にも眠り込んでしまいそうだった。



「どうですかー?」笑気ガスを勧めてくれた推しの歯科助手さんだ。

「息が苦しいです。」恋ではない。ほんとに息が苦しかったのだ。 

「ちょっとガス減らしますね。」


ガスが減らされると、あんなに眠たかったのに、目がギンギンになってしまった。


「もう苦しくないですかー?」
「はい、覚醒しました。」




ギンギンのままで手術は怖いので、手術の時はガスを強めて欲しいとお願いした。



推しは私のビビり度と、適度なガスの量と、宇宙の原理を全て把握したようだった。

頼もしすぎる。

手術中に手を握っていて欲しかったが、私は27歳で、いい大人なので言い出すのをやめた。

(ここから手術中の話のためちょっと注意)

院長がやってきてよろしくお願いしますと挨拶をした。
ガスが強められて、また眠気が先っちょからやってきた。


表面麻酔し、針でも何箇所か麻酔をしていく。
少し時間をおいてからの追い麻酔もあった。

この日いちばん痛みを感じたのは、この麻酔だった。


つまりこのあとは全然痛くなかった。


切開から縫うまで10分くらいで終わった。

この間ずっと、
目を開けられない程の眠気に襲われ続けた。

意識朦朧として体感では5分にも3分にも感じられるほどだった。

途中で院長が「ちょっと歯茎押しますね」と言ったのが怖かった。

推しが肩をぽんぽんと叩いてくれて安心できた。トゥンク・・・。





手術が終わると、予定よりも簡単に過剰歯が取れたと言って、
院長が摘出した過剰歯を見せてくれた。



ちょっと不恰好だったが、立派な1本の歯だった。




お前のせいで・・・と恨めしい気持ちもあったが
27年間、体内にあった歯との別れがちょっと切なかった。

「お前は、進歩だったの?それともバグだったの・・・?」

(手術の話はここで終わり)


受付で大量のロキソニン(こわい)と抗生物質を受け取り、会計を済ませ、帰宅した。日帰りだ。


手術当日を含めて仕事を5日休んだ。


6日目に仕事で電話を取りまくっていたら、少しヒリヒリしたので、5日休んで正解だった。

プロのビビりじゃない方にも多めの休養をおすすめしたい。

ロキソニンは2回しか飲まなかった。
つまり術後の経過は超順調だった。

院長は名医だった。

・・・・・


当日〜3日目くらいまで夜眠る前にプチフラッシュバックがあった。


手術中のちょっと怖かった院長の言葉が、頭によぎってしまって寝付けないのだ。

笑気ガスがなかったら、もっと強いフラッシュバックに悩まされて、確実にトラウマになっていたと思う。

まじで笑気ガス使ってよかった(ばかでか大声)。



笑気ガス様が達成なさった偉業をまとめると、こんなだ。

①強烈な眠気のおかげで恐怖や緊張を100分の1くらいのサイズにできた。

②意識朦朧で手術を受けられたため、術中の記憶がほとんど残らなかった。

③記憶がないから強いフラッシュバックやトラウマに苦しまずに済んだ。


これをお値段以上というのだろう。(保険適応だった。)



そんなわけで、

笑気ガスの大優勝をここにご報告申し上げ、
私のプチ手術の体験談は幕引きとさせていただく。


・・・・・


ちなみに今日の抜糸、

めっちゃ余裕ぶっこいてたら普通に痛かったし、

血も出てちょっとビビった。


ビビりすぎ。






おしまい。

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