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13畳ワンルームで僕らは旅をする

布団は床に敷く。ベッドフレームは僕ら2人を抱え切れるほど強くなかった。愛し合うたびに彼は悲鳴を上げてその悲痛な叫びが部屋にこだましていた。流石に可哀想だと思った。

この13畳のワンルームは彼女の部屋であり、僕らの動く城であり、互いを閉じ込めておくための牢獄であり、そして何よりもう一つの隔離された世界だ。ここに居れば外界からの全てを断ち切って2人になれる。世界に2人だけみたいだねなんて言える。雨が降ったりなんかすると窓の外から聞こえる音は雨だけになって、僕ら以外が世界から綺麗に消えてしまったのかと思うほどだ。だからわざと窓を開けたりもする。

ただいまとお帰りで呼び合う僕ら

こんなに誰かのただいまやお帰りと言う言葉をありがたく、そして愛おしく思った日はなかったかも知れない。そんな事を思った。彼女は仕事が忙しい。僕は比較的早く終わるし、そんな彼女をこの部屋で待つことが多い。待っている間天井を眺めて今までの僕らとこれからの僕らを混ぜて遊ぶ。近所のケーキ屋に行って何か買って来ようかそれともコンビニで彼女の好きなアイスと珈琲を買っておこうか。そんな事を考えながら微睡んだりしている内に彼女は帰ってくる。"ただいま"

だから僕は待ち侘びた彼女をこれでもかと言うくらいに強く抱きしめたい気持ちを押し殺して、そっとハグして出来る限り優しい声で言う。"おかえり"

そうやって僕らはただいまとおかえりを幾度も繰り返す。この部屋にはもう何重にもなったそんな毎日が降り積もっている。それは真っ白な雪より綺麗でドブ川のヘドロよりも醜い。日常の様々を綯交ぜにしてぐちゃぐちゃに織り混ぜたその堆積物は僕らの日々をより鮮明に記憶している。綺麗なだけならこんなに大切だと思わないだろう。

キッチンは不可侵領域。

彼女はどうあっても僕をキッチンに立たせたがらない。理由はよく分からないが不思議と悪い気はしない。僕がリビングで待つ間料理をする彼女はこの部屋の中の優しさという優しさを全てかき集めた様な顔をしている。この世界において誰よりも優しい顔だ。彼女が作る料理は合理的で一見素っ気ないが、下手に"ほら、美味しいでしょ?"なんて傲慢な顔をしない。だから好きだ。

真夜中のコインランドリーはダンスホール

洗濯物を乾かすのには時間がかかる。だから洗濯機で脱水までを済ませて後はコインランドリーに任せる。終わった頃を見計らって回収に行くのだが畳んでいる間彼女は畳むのも忘れて小躍りしている。早く畳んで欲しいし、早く畳んで帰って2人で過ごしたいが小躍りする彼女を見ていたいが為に僕はその言葉を飲み込む。

美しい映画を2人で。

時間があればこの部屋は映画館にだってなる。彼女が選んだ映画を観たり、僕が勧めた映画を観たり。2人で面白そうな映画を見つけて観たり。上映時間は主に真夜中。レイトショーも良いとこで途中で欠伸も出たりする。それを噛み殺して映画を意地でも観る彼女が可愛らしくてわざと長いのを選んだりする。

怖がるくせにホラーナイト

雷すら怖がる彼女はなぜか好き好んでホラー系のYouTubeを見る。辞めたら良いのにずっと観る。続きが気になるらしいが、見始めるのがいけないのだ。なんて言えない。ふとした時に怖がる彼女を見るのもまた一つの楽しみなのだ。悪趣味だろうか?

いつでも何処へでも

ここから始まる日々がここで終わる日々がいくつも天井に浮かんだ。そろそろ帰ってくるだろうかなんて思っていると、大概遅くなると連絡が来る。

まぁいい。思い出を一つ一つ詳らかにする時間が少し増えるだけだ。こうやって僕らはこの13畳ワンルームで旅をする。次は何処へ行こうか?

今日はここまで。
また与太話をいつか。
んじゃまた!

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