アニー・ベイカー『Janet Planet』マサチューセッツの田舎町で過ごした静かな夏
アニー・ベイカー長編一作目。一昔前が舞台のフィルムで撮影された子供視点のA24配給映画ということで、観る前は勝手に『aftersun』と似たものだと思っていたが、確かに被る部分も多くあったが根本的には異なる作品だった(当たり前か)。1991年夏、11歳のレイシーは鍼灸師の母親ジャネットと共にマサチューセッツの田舎町に暮らしていた。友人を上手く作れない孤独な時間を過ごすレイシーは母親が唯一の味方と思っているが、母親の傍には男女問わず常に別の人間がいるので、あの手この手で母親の関心を引こうとする。一方の母親も、完全に大人たちの方を向いて娘を無視しているわけではなく、寧ろ子供としてではなく一人の人間として扱うことで共依存的な関係を築いているようにも見える。映画はジャネットの周りに近付いては消える三人の大人に併せて三つの章に分かれている。そのそれぞれで、ジャネットは三人に影響されたり喧嘩したりして、レイシーもその余波に巻き込まれていく。しかし、本作品の中で最も興味深いのはそういった三人目の人物とのやり取りよりも、母娘の関係性が提示される場面だろう。ホロコーストの生存者だったジャネットの父親とジャネットとの関係や、どんな男も惚れさせる力があったせいで人生を棒に振ったと語るジャネット、11歳になっても母親と一緒に寝ることに固執し"彼女の一部"を貰い受けようとするレイシーなどの描き方は上手い。ただ、視点をたまにジャネットに移すので散漫な印象を受けてしまい、物語が全然動かないのと相まって余計に印象を薄めてしまっているのが残念ポイント。ここが『aftersun』との決定的な差だろう。
・作品データ
原題:Janet Planet
上映時間:113分
監督:Annie Baker
製作:2023年(アメリカ, イギリス)