見出し画像

Camilo Restrepo『Encounters (Los conductos)』髭面ノ怪人、夜道ヲ疾走ス

夜の道をバイクでひた走る髭面の男。誰もいない真夜中のトンネルを白い電灯が煌々と照らし、光の届かない夜は真っ赤に染め上げられている。長らく短編映画を製作し続けてきたコロンビアの映画作家 Camilo Restrepo の初長編作品であり、今年のベルリン映画祭のエンカウンター部門に選出された作品でもある。冒頭である男を射殺した髭面の男ピンキーが、夜に逃げ回り、昼は仕事をするという実に奇妙な映画で、特に夜のシーンはフィルムで撮影されたレトロな色調と陰影が相まって、近未来のディストピアを覗き見ているかのような視覚的な面白さがある。翻って昼の場面で、彼は違法Tシャツ工場の機械的な労働の一端を担っており、無表情で無地のTシャツに有名スポーツブランドのロゴを刷っていくのも、また別のディストピアのように思えてくる。それら昼夜の乖離を結ぶのは顔面戦闘力高めの髭面怪人ピンキーである。彼の存在感で映画の3割が出来ていると言っても過言ではない。

瓶の蓋を腕に押し付けて跡を付けたり、顔を白塗りにして通りをゴーカートで爆走したり、殺人を発砲音と回転する懐中電灯だけで表現したり、炎の柄の布を揺らして"炎"を表現するなど脈絡の有無に関わらず強烈な強度を持ったショットに囲まれており、次のシーンになるごとにその驚きは大きくなる。終いには巨大なピンキーの被り物まで登場して、画面のカオスさは極大を迎える。

物語が小難しくてあまり理解できてないのが悔しいが、これは中々の傑作。

・作品データ

原題:Los conductos
上映時間:70分
監督:Camilo Restrepo
製作:2020年(コロンビア)

・評価:80点

・ベルリン国際映画祭2020 その他の作品

コンペティション部門選出作品
1. マルコ・ドゥトラ&カエターノ・ゴタルド『All the Dead Ones』奴隷制廃止後も生き残る旧時代の価値観
2. ダミアーノ&ファビオ・ディノチェンツォ『悪の寓話』世にも悲しいおとぎ話
3. ブルハン・クルバニ『ベルリン・アレクサンダープラッツ』フランツはまともな人間になりたかった
4. イリヤ・フルジャノフスキー&エカテリーナ・エルテリ『DAU. ナターシャ』壮大なる企画への入り口
5. ツァイ・ミンリャン『日子』流れ行く静かなる日常
6. ブノワ・ドゥレピーヌ&ギュスタヴ・ケルヴェン『デリート・ヒストリー』それではいってみよう!現代社会の闇あるある~♪♪
7. ケリー・ライヒャルト『First Cow』搾取の循環構造と静かなる西部劇
8. ジョルジョ・ディリッティ『私は隠れてしまいたかった』ある画家の生涯
10. リティ・パン『照射されたものたち』自慰行為による戦争被害者記録の蹂躙
11. ヴェロニク・レイモン&ステファニー・シュア『My Little Sister』死にゆく兄と戦う妹
12. エリザ・ヒットマン『17歳の瞳に映る世界』自己決定と選択の物語
13. サリー・ポッター『The Roads Not Taken』ごめんパパ、何言ってるか分からないよ
14. フィリップ・ガレル『The Salt of Tears』優柔不断な男の末路
15. アベル・フェラーラ『Siberia』悪夢と記憶の荒野を征く者
16. モハマド・ラスロフ『悪は存在せず』死刑制度を巡る四つの物語
17. クリスティアン・ペッツォルト『水を抱く女』現代に蘇るウンディーネ伝説
18. ホン・サンス『逃げた女』監督本人が登場しない女性たちの日常会話

エンカウンターズ部門選出作品
1. Camilo Restrepo『Encounters (Los conductos)』髭面ノ怪人、夜道ヲ疾走ス
2. ティム・サットン『Funny Face』地域開発業者、ヴィランになる
3. Victor Kossakovsky『Gunda』豚の家族を追う親密なホームビデオ
5. マリウシュ・ヴィルチンスキ『Kill It and Leave This Town』記憶の中では、全ての愛しい人が生きている
7. クリスティ・プイウ『Malmkrog』六つの場面、五人の貴族、三つの会話
8. Catarina Vasconcelos『The Metamorphosis of Birds』祖父と祖母と"ヒヤシンス"と
9. Melanie Waelde『Naked Animals』ドイツ、ピンぼけした青春劇
10. アレクサンダー・クルーゲ & ケヴィン『Orphea』性別を入れ替えたオルフェウス伝説
12. Pushpendra Singh『The Shepherdess and the Seven Songs』七つの歌で刻まれた伝統と自由への渇望
13. ジョゼフィン・デッカー『Shirley』世界は女性たちに残酷すぎる
14. サンドラ・ヴォルナー『トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン』小児性犯罪擁護的では…
15. C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム『仕事と日(塩谷の谷間で)』ある集落の日常と自然の表情

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!