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Heiny Srour『The Hour of Liberation Has Arrived』オマーン、ドファール反乱と女性の権利について

傑作。1974年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。同映画祭コンペ部門に選出された数少ないレバノン/オマーン映画の一つであり、数少ないドキュメンタリー作品であり、初のアラブ人女性監督の作品。ヘイニー・スロール(Heiny Srour)長編一作目。監督は本作品の大きな影響を与えた作品として『8 1/2』を挙げている。映画はドファール反乱を描いた作品であり、ドファール州の奥深くで撮影された世界唯一のドキュメントである。撮影隊はイギリス軍との戦闘地帯であるこの地域に到達するため、イギリス空軍の爆撃を受けながら山々や砂漠を越えて800kmも歩く必要があった。反乱はマルクス主義団体であるドファール解放戦線が帝国主義打倒及び最終的な中東の欧米からの解放を目指して1965年に開始され、1968年にはキューバやベトナムと同じく戦闘は激化していた。そして、この年に開かれた第二回大会にて、当時先進的な女性の権利を全面的に認めた。映画はその3年後の1971年に撮影され、1974年に公開された。なお、反乱自体は1976年に反乱軍の敗北によって終息している。映画はまず1971年に至るまでの敬意を丁寧に説明する。サイード・ビン・タイムールによる圧政、石油を牛耳るイギリスとアメリカの影、彼らが支配しやすくするために互いに反目し合うよう仕向けられた部族の歴史がスライドや写真、新聞、資料映像などで語られる。中盤以降は同時代の戦闘や戦線が行った事業などが紹介される。水設備の整備、試験農場の設置、学校の開設、道の整備、地域初の病院の開設など多岐にわたっている。学校では男女が共に参加し、女性が社会に対等に参画する思想が徹底されている。曰く"片手では手も叩けず片足では歩くこともままならない"と。中でも、文盲だったという少女にインタビューするシーンは非常にパワフルで印象的だ。曰く、これまで女性は自由に動けなかったが、革命以後それらは女性たちの利益のためではなく彼女らの魂を奪うためのものだと気付いた、私はもう家族や部族が私を抑え込むのを許さない、と目を輝かせながら言うのだ。一方で慢性的な人員不足から学校では子供への軍事訓練も行われていて、"社会の解放なくして女性の解放なく、女性の解放なくして社会の解放はない"という言葉が出てくるほど女性の権利を認めることと戦闘は結び付いている。ままならないなあと。

・作品データ

原題: ساعة التحرير دقت
上映時間:62分
監督:Heiny Srour
製作:1974年(オマーン, レバノン, フランス, イギリス)

・評価:80点

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