![上半期ベスト](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/12662469/rectangle_large_type_2_812662d4df76bad2ab78a70756b55245.png?width=1200)
2019年 上半期新作ベスト10
今年ももう6月になって上半期ベストを発表する時期となった。今年は新作旧作併せて400本、新作だけだと66本観たのでその中からのランキングである。今更ながら400本も観てると"観たことすら忘れてる"作品も多くあり、整理していて驚いたこともあった。『ハウス・ジャック・ビルト』なんか1月に観たんで去年のことだと思ってた。下線が引いてある作品はnoteに記事があるのでそちらも是非お読みください。
1位『Summer (Leto)』キリル・セレブレニコフ
ヴィクトル・ツォイとマイク・ナウメンコ夫妻の伝記ものでありながら、彼らの曲はほとんど使わず、イギー・ポップやトーキング・ヘッズの曲をMVのように使うことで、彼らの自由さを映像の自由さで表現する。しかし、実際には起こらないことを常に伝え続けることで、現代ロシアまで脈々と続く抑圧の歴史を提示するのだ。
2位『Mektoub, My Love: Canto Uno』アブデラティフ・ケシシュ
監督のセクハラ問題によって日本公開が消し飛んでしまったケシシュのバカンス映画。次作『Mektoub, My Love: Intermezzo』が4時間に渡って女性の尻を追っていることでカンヌから総スカンを食らったため若干ランクを落としてしまったが、バカンスを謳歌し、その時その時を楽しく生きようとする若者たちを描写していて非常に楽しかった。次作は擁護できそうにないけど、観るよ。多分。
3位『Knife + Heart』ヤン・ゴンザレス
フランスのゲイポルノを研究していたヤン・ゴンザレスが放つサイケデリックな悪夢譚。ポルノ男優の殺人事件を推進剤としながら、主軸にあるのは男たちに囲まれたアル中女性ゲイポルノ監督が抱く編集担当の女性への狂気的恋愛感情なのだ。出演陣も豪華で、ゴンザレスの並々ならぬやる気を感じる。
4位『チワワちゃん』二宮健
なんとも安っぽい映画であるのだが、それこそが作品の狙いであって、我々平成世代の青春がここに詰まっている。何かをやろうとしても情報が多すぎて、何も始められない。それは陰キャでもパリピでも同じだったようだ。チワワちゃんが彼らの失った青春の結晶なのだとすれば、私のチワワちゃんの遺体は誰にも発見されていないだろう。
5位『サンセット』ネメシュ・ラースロー
巨大な帝国の崩壊と新たな時代の始まり。マクロな時代が終わって、個人の時代が始まる。それを狂気的に近いカメラで掬い取り続ける。帽子にしたのは、多分顔しか興味が無いから。あれだけ精巧なセットをここまで背景として使う映画を、私は他に知らない。
6位『女っ気なし』or『宝島』ギョーム・ブラック
劇場鑑賞という括りならブラックのベスト『女っ気なし』を入れたいところであるが、ブラック本人に会って質問し、サインまで貰ったというイベント性を考えるなら、『宝島』に一票入れたい。過ぎ去ってしまった過去を留めておきたいという思いから作られた、レジャーアイランドの日常を利用するもの/されるものの視点から丁寧に紡ぐのだ。最高の一言に尽きるだろう。
7位『3 Faces』ジャファル・パナヒ
現実と虚構を陸続きにして煙に巻く手法でパナヒの右に出る者はいないだろう。そんな彼の最新作が本作品である。自殺宣言を監督と人気女優に送りつけた少女。彼女を探すため、監督と女優は田舎の村を訪れる。キアロスタミ『オリーブの林をぬけて』っぽい車移動映画であるが、片時も車を離れようとしないのが宇宙遊泳を続けるSF映画のようで、非常に興味深い。革命以前の老女優、今を必死に生きる女優、未来の女優志望の少女を一堂に会させることで、イランの歴史を濃縮して提示するのだ。
8位『女王陛下のお気に入り』ヨルゴス・ランティモス
歴史好き、陰謀好きとしては、この女性版『バリー・リンドン』は外せない。成り上がるレイモンド・バリーと堕ちてゆくバリー・リンドンが一つの画面に収まり、互いに互いの足を引っ張りながら目まぐるしく動いていく様は観ていて最早笑えてくる。成り上がったエマ・ストーンがウサギとオーバーラップするラストも最高。
9位『憶えてる?』ヴァレリオ・ミレーリ
イタリア映画祭よりエントリー。最早時間軸がめちゃくちゃになり、記憶が良いようにも悪いようにも改竄しつつ生きていく一組のカップルの年代記である。実際、"意識の流れ"にしてはなんの意識に対するなんの流れなのか分からないくらい時系列は入り乱れているんだが、後半にかけてはそれが会館になってくるのがまた不思議である。
10位『アス』ジョーダン・ピール
最終日に滑り込みでエントリー。ドッペルゲンガーに襲われる黒人一家の恐怖を中心に、貧困問題を考えるジョーダン・ピールの最新作。頭から伏線に満ち溢れているので、何度観ても面白い作品になっている。
・終わりに
下半期には『アポロ11』や『クライマックス』や『ドッグマン』、そしてBIFFやTIFF、フィルメックスにくるであろう作品に期待して、上半期ベストを締めくくりたい。
『ハンガリー映画史』って記事も書いてるんで、お時間ありましたら是非どうぞ。
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