クリストフ・ホーホホイスラー『Till the End of the Night』トランスフォビア刑事、トランス女性と潜入捜査する
2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。クリストフ・ホーホホイスラー長編六作目。潜入捜査官ロベルトは麻薬売買に使われた闇サイトを調査するため、標的ヴィクトルの知り合いで収監中だったレニと組むことになった。ただ、どういう判断でこの二人を組ませたら上手くいくと思ったのか不思議なくらい二人の仲は悪い(マジで意味不明だったので海外評探訪してみたが、みんな分かんなかったみたいで書いてある内容がバラバラだった)。レニの方はヴィクトルの妻ニコールと仲良くなって、ロベルトにヴィクトルの運転手の仕事を貰ってくるなど、ちゃんと捜査に協力していたが、ロベルトの方は気性が激しく、トランスフォビアであることを隠さず、なんなら捜査を妨害するという意味不明な行動をしていたので、一方的にロベルトが悪い。もう誰が警察なのか分からん。ロベルトがそんな奴なので真面目に捜査が進むはずもなく、何もしてないから何も進展しないという当たり前体操で、手段なのか目的なのか分からない"ヴィクトルと顔を繋ぐ"という超初歩段階で延々と時間を使っている。これはロベルトとレニ、ロベルトとヴィクトルの関係性を徐々に構築していくための時間かと思いきや、後半はもうそんな基礎固めとかどうでもいいくらい適当になる。そして、最終的には標的であるはずのヴィクトルに人生相談をする始末。まぁ仲良くはなれたのかな…?(そして意外といいヤツで笑った)。その場でロベルトは自分がゲイだと仄めかした上で、レニの魅力に戸惑っている旨を打ち明けるが、流石に前の展開を踏襲してなさすぎて意味不明だった。互いに反目していたが徐々に近付いていく云々という最低限の骨格しか残ってないじゃないか。事件の捜査もしないし、主題に据えたくせにセクシャルマイノリティの扱いも適当だし、後半なんか破綻しすぎてて何が起こってたのか全く分からなかった。一体何がしたかったんだろうか。しかも、全編から感じる不快感は全く意図してなさそうで、寧ろ正しいことを言ってるという認識があるような気がする。それが一番怖いわ。もう何も良いとこなし、観るのが苦痛だった。唯一良かったのはレニ役テア・エーレの演技で、ちゃんと銀熊賞(主演俳優賞)取ってた。
・作品データ
原題:Bis ans Ende der Nacht
上映時間:123分
監督:Christoph Hochhäusler
製作:2023年(ドイツ)
・評価:30点
・ベルリン映画祭2023 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
1 . エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン『ミツバチと私』スペイン、ルチアとその家族について
2 . クリスティアン・ペッツォルト『Afire』ドイツ、不機嫌な小説家を救えるのは愛!
3 . リウ・ジエン『アートカレッジ1994』中国、芸術と未来に惑う青年たちの肖像
5 . マット・ジョンソン『BlackBerry』カナダ、BlackBerry帝国の栄枯盛衰物語
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8 . アイヴァン・セン『Limbo』オーストラリア、未解決事件によって時間の止まった人々
9 . ジョン・トレンゴーブ『Manodrome』インセル集会に出てみたら…
10 . アンゲラ・シャーネレク『ミュージック』人間に漸近する神話のイデア
12 . セリーヌ・ソン『Past Lives』輪廻転生の恋と現世の恋
14 . チャン・リュル『白塔の光』中国、心の中の"影なき塔"
16 . ロルフ・デ・ヒーア『サバイバル』植民地主義と人種差別への諦めと絶望
17 . 新海誠『すずめの戸締まり』同列に並ぶ被災地と遊園地
18 . クリストフ・ホーホホイスラー『Till the End of the Night』トランスフォビア刑事、トランス女性と潜入捜査する
19 . リラ・アヴィレス『Tótem』メキシコ、日常を演じようとする家族の悲しみ
★エンカウンターズ部門選出作品
1 . ウー・ラン『雪雲』中国、"不在"を抱えた都市への鎮魂歌
2 . ダスティン・ガイ・デファ『The Adults』大人になった三人の子供たち
7 . バス・ドゥヴォス『Here』ベルギー、世界と出会い直す魔法
9 . ホン・サンス『水の中で』ほぼ全編ピンボケ映画
12 . ポール・B・プレシアド『Orlando, My Political Biography』身体は政治的虚構だ
13 . ロイス・パティーニョ『サムサラ』ラオスの老女、ザンジバルの少女に転生する
16 . Szabó Sarolta&Bánóczki Tibor『White Plastic Sky』ハンガリー、50歳で木に変えられる世界で